IDEOから学ぶイノベーションの極意!
2004年 03月 26日
久しぶりに、時間を忘れて没頭してしまうような本「発想する会社!」(トム・ケリー他著、早川書房)を読みました。
この本は、スタンフォード大学のManagement Science and Engineeringの春学期の授業"Creativity and Innovation"の教科書になっています。
パロアルトにあるIDEOというデザイン会社について書かれている話なのですが、どうやってイノベーションを起こしているかを平易な言葉で綴っています。
■問題解決にネットワークを使う!
「難しい判断や理解できない問題で行き詰ったときは、自分が知っている限りの頭の切れる人間に相談すること・・・これが問題解決のためのネットワーキング・アプローチ・・・」
そうですよね。一人の人間が知っていることなんてたかがしれています。にもかかわらず、判断はしなければならない。だからこそ、ネットワークが大切になります。シリコンバレーに来て本当に実感しているところです。
■インスピレーションを得る!
「現場のそばにいることによってインスピレーションを得られることがよくある。これがインターネット時代にあってさえ、地理が意味を持つ理由だ。・・・新しいアイデアは、見ること、嗅ぐこと、聞くこと - つまりその場にいること - から生まれる。」
まさに、日本の現場・現実・現物を大切にする三現主義ですね。
「インスピレーションの源泉は別のところで見つけなければならない。」
私の場合、いろいろなアイデアや発想は、机にしがみついているところから生まれてくるよりも、対話などの中から出てくるような気がします。対話などの中で、いろいろな話題や経験に触れることで、ヒントを得ることがたくさんあります。
「よいアイデアを手にいれる最良の方法は、『多くの』アイデアを手に入れることだ。ライナス・ポーリング」
ライナス・ポーリングといえば、ノーベル化学賞とノーベル平和賞を受賞した人のようですが、明治大学の斎藤孝さんがおっしゃっているように「量こそ質」という概念と同じような気がします。
■プロトタイプを作ることは大切!
「プロトタイプを作ることは、イノベーションのプロセスの一段階であると同時に、一つの哲学でもある。まだ決まっていない要因があっても、前進しつづけるという哲学だ。」
「プロトタイプ製作は、問題を解決する方法だ。そして、文化であり言語である。」
「特に複雑なプロジェクトの場合、プロトタイプ製作は克服できそうにない難しい問題を解決して前進するための一つの方法だ。」
ベンチャー企業なら、あるいは、新規事業を立ち上げていくには、まず作らなければならないものであるが、実は、この重要性に気づいている人は少ない。みんなきっと、頭で分かっているけれど、皮膚感覚で分かるには、
「ルールを破り、「失敗して前進する」。」
という繰り返しを経験していかなければならないのだろう。
■イノベーションが多くの人に受け入れられるのは難しい!
「人々が全く新しい製品を採用するときのバリアを決してあなどってはいけない・・・」
そう、「革新」という言葉に魅了される人は多いけど、実はとても保守的。だから、スイッチングコストは意外と高い。
「広大な海や文化の境界が変化にたいする大きなバリアになることがある。・・・採用曲線は文化によって、また製品によって大きく異なるのだ。」
「惰性や思い込みによる習慣を乗り越えるには、特に努力して取り組まなければならない。」
「人や国がどれくらい変化やイノベーションに抵抗するかを本当に理解するには、私たちアメリカ人自身の目の前の扉を見るだけでいい。信じられないことに、アメリカはよりすぐれた度量衡法であるメートル法への移行に抵抗する最後の主要国になっている。いまや私たちの仲間は、リベリアとミャンマーだけなのだ。「慣習による度量衡」を支持するアメリカ人は、メートル法を『ヨーロッパの一時的流行』と呼ぶ。」
気持ちの持ちようで、人間はすぐに変わるのだけれど、逆に、なかなか気持ちを切り替えられないというのも、また人間であるような気がします。そのあたりを、身をもって体験してきてるんだなあと感じました。
■イノベーションを起こそう!
「デッドラインを、信頼できる友に変えよう。」
時間が限られていることを強く意識するからこそ、チームは力を発揮するときがある!助け合おうという気持ちがチームの中に芽生えてくる!
「製品やサービスを提供するとき、『名詞』ではなく『動詞』で考える。それによって、あなたの会社やブランドと出会うすべての人のためにすばらしい経験をつくりだせる。」
名詞は「断面図」であり、動詞にすると、時間が流れ出すのだ。これは、まさに散逸構造の要素となる「時間」が持つ魔力だ!
「(Amazon.comのジェフ・ベゾスが引越し先を決めずに、荷物をトラックに積み込んだという)ベゾスの行動はまさに、イノベーションを生む人々の毎日の行動である。問題を部分に分け、『他のことをしながら』同時に意思決定をする。」
「イノベーションの成功とは、ゴルフの完璧なスイングのようなものだ。・・・うまいスイングのために、やることはたった十七しかない・・・それぞれは悲しくなるほど簡単だ。頭をさげておけるかい?もちろん。左腕をまっすぐにできるか?できる。ひざを少し曲げられるか?よしてくれ。ばかにする気か?すべて簡単だ。難しいのは、その十七のことをすべて同時にやることなのだ・・・そして、それを数十回、コースで一貫してやりつづけるのだ。」
これは、本当に難しい!スキーで滑り出すと、いろいろと気をつけなければならないことに気づくのだが、意識が集中できるのは、ほんのわずかなポイントしかない!同時にやるということは、結局「タイミング」が大切であるということでもある!Timing is everything!
「人間らしさを失わず、組織の環境を調整して、ホット・チームが生まれ育つ余裕を作る。」
そうだ!そうだ!シリコンバレーでは、いや、パロアルトでは、みんなが人間らしさを失うことなく生活している!だから、ここから新しいものを生み出す力が湧き出てくるんだ!
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ぜひ、ご一読を _(--)_
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