日本もいっそ途上国としてやり直しませんか〜♪

二流国転落を論じられる日本」という記事では、
清華大学の袁鋼明教授は、日本経済の行く末に悲観的な見方を示す。「1990年代のバブル崩壊は日本経済のタ-ニングポイントとなり、日本経済はこれ以降『失われた20年』に突入した。そしてこのたび発生した大地震は再び日本に大打撃を与えた。日本経済はこれで再起不能となり、長期的な不況に陥り、日本は二流国家となるだろう」
日本もいっそ途上国としてやり直しませんか〜♪_a0004752_22522378.jpgと述べられているが、すでに「途上国化する日本」という本が出版されている。著者は、スタンフォード大学で経済学のPhDを取得した東京大学新領域創世科学研究科国際協力学専攻の戸堂康之准教授。

1995年には、名目GDPでアメリカやイギリスを抜いたものの、バブル崩壊後停滞し、2009年にはアメリカの8割5分になっているという。しかし、「名目GDP」で比較していていいのかという疑問から、一人当たりの購買力平価調整済みGDPで比較すると、日本はバブル最盛期でもアメリカを追い抜いたことはないということが見えるという。なぜこのようなことになっているかというと、為替の関係で、名目GDPが大きくなっていただけだだと著者は言う。

また、技術レベルについても言及している。工学的技術だけでなく生産効率を向上させる工夫や経営的な技術を含む「全要素生産性」で比較すると、現在の日本は、アメリカの7割に満たない程度、イギリスの8割程度だという。

著者は、日本が、実は輸出依存度も低いのだということも統計的に示している。ただ、そんなことがもっとも重要なのではなく、むしろ世界経済に対して閉鎖的であることが問題だという。すなわち、輸出が足りない、海外への投資が少ない、海外からの投資が少ないという。

ではどうしたらいいのか。筆者は、日本が再生し、飛躍するにはグローバル化するしかないという。以下、本書から、主張を抜き書きしてみることとする。

民主党政権は、2009年末に発表した「新成長戦略」において「需要からの成長」を提唱している。しかし、需要は長期的には経済成長の源泉とはなり得ない。(p37)

国民の所得が増大し、経済を成長させるためには、あくまでも技術進歩による生産性の工場が不可欠

1960年頃にノーベル経済学賞受賞者のロバート・ソローらによる新古典派成長論が興り、長期的な経済成長の源泉が技術進歩にあることを明らかにした。(p38)

1980年代後半以降にポール・ローマー(スタンフォード大学)らによって内生成長論と呼ばれる経済理論が発展し、技術進歩のプロセスの解明が進んだ。特に、1986年に発表されたローマーの論文では、技術レベルは研究開発活動によって向上すると考えられている。ただし、「技術」を科学技術だけではなく広い意味でとらえたように、「研究開発」も基礎研究、応用研究、開発や設計と行った本来の意味での研究開発だけでなく、生産性の向上のためのQC活動や、よりよいマネジメント手法などをも含んだ広い概念である。

このローマーの理論で最も重要な結論は次の2点である。第1に、政府が介入して補助金や優遇税制によって研究開発を奨励すれば、技術進歩が促されてより望ましい経済成長が達成される。(p39−40)

新しい技術・知識をただ乗りして利用されてしまうことから、研究開発に対する潜在的な意欲は阻害されている。だから、政府が介入しない市場経済においては研究開発が十分には行われない。そこで、研究開発を政策によって補助して奨励する必要がある。つまり、研究開発については政策の介入が正当化されているのだ。(p40)

第2の重要な結論は、人口規模が大きい方が経済成長率は高いということだ。(p42)

ジョナサン・イートン(ニューヨーク大学)らは、・・・G5ですら自国の技術進歩の多くを外国の研究開発に依存していたことがわかった・・・1990年には日本の研究開発がアメリカの技術進歩の20%、イギリス、ドイツ、フランスの約30%を担っていたことを示している。・・・世界各国は互いに技術を伝えあってともに繁栄しているのだ。そのネットワークから孤立してしまっては、世界から取り残されてしまう。(p45−47)

輸出・対外直接投資は生産性を高める(p51)

企業がグローバル化しやすい経済環境を整えることに政策の重点が置かれるべき・・・政策は3つ考えられる。1つは、関税や数量規制などの貿易障壁や、直接投資の流入・流出に関する規制の縮小・撤廃・・・もう1つは企業に対するミクロ的な政策・・・海外の市場や制度に関する情報の提供や、グローバル化のための金融支援・・・最後は、国内の規制を緩和し、競争を促進し、企業の新陳代謝を促すことで、間接的にグローバル化を促進する政策である。(p130)
というわけで、FTAやTPP賛成派という感じ。また、面白いのは、次のような件。
日本人は農耕民族だから共同体に依存して閉鎖的になってしまう、という考え方を聞くこともあるが、これも間違いだ。そもそも、西欧人を含めて人間はほとんどが農耕民族である。狩猟民族だった人間が約1万年前に「農業」という革命的な技術を開発し、そのおかげで狩猟よりもはるかに多くの食料を生産することができるようになったことで、人間は飛躍的な発展を遂げた。日本人だけが農耕民族で、世界の他の民族をすべて狩猟民族とみなすのはあまりにもおかしな考え方だ。

しかも、農耕民族が閉鎖的というのも間違いだ。・・・農耕によって多くの食料を生産することができたマオリ族は、富を蓄積し続けて、とうとう海を越えて(その日暮らしが精一杯で、外へ出て行くだけの富を蓄積することができなかった狩猟民族の)モリオリ族を侵略することができた。だから、日本人は農耕民族だから閉鎖的であり、グローバル化に向いていないという議論は全くあてはまらない。

では、江戸時代の長期にわたる鎖国が日本人を内向きにしてしまったのか。これについては、その可能性も否定できない。・・・たった200年間の鎖国という制度が日本人を極端に閉鎖的にしてしまったとは思われない。

結論。日本人には、リスクを恐れず海を渡った先人たちの血が流れている。決して本質的に閉鎖的なわけではない。(p102−104)
ここは、実証分析の結果をもとに述べているのではなく、著者・戸堂氏の日本人を信じる強いメッセージが込められているような気がする。

さらに、最後にアントニオ猪木が引退式で語った言葉が引用されている。
「迷わず行けよ、行けばわかるさ。」
うーん、なかなか味わい深い〜♪

日本はもはや先進国だとかGDP3位だとか言ってる場合じゃない。いっそのこと、これからまだまだ発展する「発展途上国」だという意識を持つことで、もっとのびのびと、前を向いてやっていけるのではないだろうか。

小さな小さなプライドにしがみついて、小賢しいことばかり考えているのではなく、まずは、自分達がおかれている足下をしっかりと見つめ直す。

そして、地に足の着いたところから勇気をもって一歩踏み出していく。

成長や飛躍は、そういう人達のやる気とそれを後押しする政策的な措置、そして、これまでに国際的な協力を惜しまなかった日本と日本人によって築かれた「日本」に対する世界からの信頼・ブランドなのかもしれない。これを活かしていくっきゃないでしょ〜♪
by yoshinoriueda | 2011-04-21 22:37 | 政治・経済・政策・地域開発 | Trackback | Comments(0)

清涼剤はSilicon Valleyの抜けるような青い空。そして・・・


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