書評「失敗した環境援助」(著:李賢映・上野貴弘、監修:杉山大志)
2011年 09月 04日
本書を最後まで読んで振り返ると、低所得国に対して、太陽光発電や小規模水力発電を導入することは、正しい環境援助の姿ではなく、むしろ、大型水力発電の導入こそ、今、必要な援助ではないかという問いかけがなされているように感じる。
「はじめに」の部分で監修者が触れているが、本書は、丁寧な文献調査がなされており、至る所に参照の脚注が振られている。著者らは、読み込んだ文献をつなぎ、背後にある考え方を示してくれる。しかも、電力に関する事情を理解した上で、つづられているので、開発論でよく見かけられる「べき論」にとどまらない面白さがある。
現在、日本は、原子力発電所が再稼動せず、電気が足りなくなるかもしれないという状態で、皆が節電に心がける毎日であるが、これは、もはや途上国と同じ状態にあるといってよいかもしれない。今、日本で暮らす人は、本書の第2章「日本と韓国の地方電化と貧困削減の経験から得られる教訓」という部分を読むと、どうやって日本がこのような高品質な電力を得ることができるようになってきたかを垣間見ることができる。
電気事業のあり方を見直す議論がなされようとしているが、その際、本書の第2章に書かれているような事柄は、議論をなす上で、知っておくべき事実であろう。
全体の主張に加え、面白いと感じたのは、第4章の技術移転支援の部分。この部分だけで何冊もの本がかけそうだし、マクロ経済学の内生的成長理論にも関係する部分にもなるが、参考文献として挙げられている日本語の文献の3分の1には目を通したこともあり、懐かしい気分になった^^;
開発経済学、環境経済学、電気事業制度、技術移転、再生可能エネルギー、森林破壊、開発援助といった分野に関係した人にとっては、知的刺激に溢れる一冊となるだろう。読むべし!