ナノテクが示唆する未来
2004年 11月 24日
アニメの鉄腕アトムは、現在、30代半ばから40代の働き盛りの人の多くに大きな夢を与えてくれたかもしれない。ホンダやソニーがロボットを作ることに挑むのも、そんな背景があるのかもしれない。そして、2003年、「鉄腕アトム」は「Astroboy鉄腕アトム」という名に変わり、再びテレビ番組として登場した。そして、2004年。もうひとつの「アトム」が注目されている。それは、「原子」の大きさをベースとしたナノテクノロジー(ナノテク)である。「atomの時代」から「bitの時代」になったと騒がれ、IT産業が急速な発展を遂げた約10年。ナノテクは、まだサイエンスの段階にあるが、これまでの常識を超える可能性を秘めた基盤技術として注目されている。
ナノテクとはなにか
現在、ナノテクと呼ばれているものは、「100nm=0.1μm以下のサイズのモノ」というのが一般的な共通認識である。ナノテクの世界では、モノのサイズが小さくなるだけでなく、今までとは異なる性質を持つようになる。この新しい性質がこれまでの常識を超える効果を発揮する。例えば、家の壁や窓ガラスは雨風に打たれて汚れるものであるが、ナノテクを利用すると、壁や窓ガラス自体に、汚れを分解してしまうような効果を持たせることができる。すでに、空気が減りにくいテニスボールやサングラス、汚れがつきにくい服、車の塗装など、さまざまなところで利用され始めている。参考:The Top Ten Nanotech Products Of 2003
シリコンバレーとナノテク
半導体産業の中心であるシリコンバレーでは、微細加工の技術が、直接、ナノテクにつながっている。半導体を作るときに、細かく加工していくことで、1本1本の線の幅がナノの世界になってくる。このようなナノテクへのアプローチをトップダウンと呼ぶ。逆に、小さな粒子などからナノのオーダーの構造を作るアプローチは、ボトムアップと呼ばれる。新しい発想に憑かれたシリコンバレーでは、ボトムアップのアプローチを採用するベンチャー企業も数多く見られる。ボトムアップのアプローチがベンチャー企業にとって都合のいいところは、いまだ物理学の世界であることから新しい知見がどんどん出てくるところであるということや、それらを生み出すためのプロセスに半導体産業ほど資金を必要としないということが考えられる。
ナノテクのエネルギー分野への応用
これからの半世紀の間に、さらに大きな問題となると考えられているエネルギー問題を解決するため、ナノテクが応用されはじめている。具体的なものとしては、太陽光発電と燃料電池の分野がある。ナノ粒子を「塗る」あるいは「印刷する」ことで、コスト競争力のある太陽光による発電が可能となりつつある。また、ナノ粒子により構造を作ることで表面積の広い膜を作り、それを燃料電池のパーツとすることで効率を向上させるといった取り組みがなされている。電力系統からの電気に比べて不安定であることから、品質は不十分であるが、コストが下がってくることにより、これらの電源は破壊的技術になる可能性を秘めている。クリステンセンが「イノベーションのジレンマ」で指摘したように、このような「破壊」は、品質が必ずしも十分ではないものの、コストは十分に安いという製品が現れたときに起こりうる。電力会社は、今こそ、事業リスクのマネジメントの観点からも、このような破壊的技術に基づく電源に、真摯に取り組むことが求められているのではないだろうか。