東京大学エネルギー工学連携研究センター主催シンポジウム「日本のエネルギー戦略を考える」を傍聴

東京大学エネルギー工学連携研究センター主催の「日本のエネルギー戦略を考える」というシンポジウムに参加。

シェールガスなど非在来性ガスがエネルギー需給に影響を与える可能性を指摘されたり、SOFCを組み合わせたトリプル複合発電が大切だという話もあったが、面白かったのは、「空調・給湯の省エネルギーの可能性」と題した鹿園直毅教授の話。

話のポイントは、冷暖機能を備えたものではなく、冷房あるいは暖房だけに特化した専用機能の製品を開発することにより、さらなる高性能化・低コストを目指すべきということだったのだが、面白かったのは、経験曲線を示して、エアコンは習熟効果が働きやすいということを紹介されたところ。

習熟率が80%だと、生産台数が1桁増すとコストは半分になるらしく、エアコンの習熟率が80%なので、そういった効果が期待できるということらしい。全世界で1億台の需要があるうちの10%のシェアをとると1000万台。100万台くらいしかつくらないメーカーと1000万台つくるメーカーでは、コストで勝負が決まってしまうとのこと。だから、世界を見据えて、数を多く作っていかないとダメだということらしい。

ダイキンが中国の珠海格力(じゅはいかくりき)電器といっしょにビジネスをやっていくのはなぜかと疑問に思っていたので、某メーカーの知り合いなどにいろいろ聞いていたのだが、そういう事情が背景にあれば、少しは理解することができるように思える。

参考:
ダイキン工業と格力電器がインバータエアコンの生産委託で合意
‐グローバル市場への省エネ性に優れたインバータ技術の普及‐


ダイキン工業と格力電器がインバータエアコンの普及拡大を目的に
空調機器の基幹部品および金型の生産合弁会社の設立に合意


面白かったのは、パネルディスカッション。地球環境産業技術研究機構(RITE)理事・研究所長の山地憲治氏がゲストで招かれていたのだが、有識者としての優れた見識を示されておられた。パネルディスカッション冒頭のコメントの骨子は以下のとおり。

* エネルギー政策は今、大きな転換点にある。まずは基本目標をつくるべきで、いろいろ考えたが、やはり3E+Sとなるのではないか。

* 原子力については、「とても使えない」という声も多いが、どれくらいを原子力で担うかを考えていくべき。現在1兆kWhの半分、5,000億kWh程度を原子力でもっているが、例えば、2,000億kWhにするならば、残りの3,000億kWhを埋めていかなければならない。1,000億kWhを節電してもらうとすれば、再生可能エネルギーで1,000億kWh、化石燃料で1,000億kWhというところか。

* 再生可能エネルギーで1,000億kWhを太陽光で担うなら、1億kW必要。風力なら、24%の稼働率で5,000万kWh必要。化石燃料は担えるだろうが、温暖化対策をどうするのかという問題が残る。

* デマンドサイドは、ピークカット、電気自動車による蓄電、燃料電池による分散型電源が一体で動く必要。情報を活用して、見える化し、行動を変えてもらうとともに、制御を行うというデマンドサイドマネジメントも必要。

* 不確実性が大きいことが問題。原子力をどうするかという問題もある。再生可能エネルギーは固定価格買取制度が導入されるが、どの程度普及するかは不透明。温暖化で25%削減目標を掲げているが、これをどうするのかも不透明。経済状況も不透明。政治についても不確実性が高い。例えば、温暖化の中期目標については、2009年6月に「2005年比15%」というのを打ち出したが、その3ヶ月後には「1990年比25%」となった。そんな状況をみていると、真面目にやる意味があるのかとさえ思えてくる


最後のところは場内大爆笑。

一方、原子力については、重苦しい雰囲気の中、ディスカッションがなされていた。先の山地所長と藤井教授の話は、以下のような感じだった。

山地所長)今は、安全に対する信頼回復が大切。そういう意味では工学的に考えるべきところ。原子力の分野では「深層防護」(defense in depth)という考え方がある。1層目から3層目までは、異常発生防止、万一異常が発生しても事故への拡大を防止、万一事故が発生しても放射性物質の異常な放出を防止というところ。4層目はアクシデントマネジメント。周辺に放射能を出来るだけ出さないこと。5層目が防災。

これまで多くの人に不安を与えないように、周辺にリスクはないという言い方をしてきた。今回の福島の事故では、4層目が弱かった。これまでアクシデントマネジメントは必須ではなかったが、これからは規制上の要求事項にしていくべきか。

なお、5層目については、JCOでの臨界事故を契機としてオフサイトセンターなどを整備した。今回も、初期の対応は合格点。しかし、長引いた結果、不合格になったという感じ。

 もう一点として問題となるのは、リスクコミュニケーションの話。急性被曝で問題となるのは、一気に線量を浴びる場合。特に、低レベルの放射線による被曝について、リスクコミュニケーションが困難な状況になっている。

藤井教授)専門家ではないが、低線量の部分への対応が原子力の今後に影響を及ぼすことを危惧。具体的には、除染に対する対応。1mSv/年に抑えるためには、数10兆~800兆円もの費用がかかるという試算を目にする。カリウム(K40)や自然界のバックグラウンドが存在するが、活性酸素によって200mSv/日のダメージが細胞に与えられている。このような事実と除染の話は、整合がとれない。どこからアブナイかをしっかりと考えておかなければならない。


そんな話がなされていると、東京大学エネルギー工学連携研究センターの堤教授は、「『需要vs供給』という考え方では破綻する、『生産・利用・再生』という考え方でやるべき」という考え方を貫いてきたが、今回はそれが全くない、とご不満の様子。司会の荻本特任教授は「返す言葉がないコメントがでてしまった」と苦笑。「継続的に考えていきたい」と答えてその場をおさめたところはオトナな対応だった^^;

少し延長してしまって、レセプションまで出ることができなかったが、シンポジウム自体は、いろいろと考えさせられることも多く、とても面白かった。
by yoshinoriueda | 2012-01-27 23:36 | エネルギー・環境 | Trackback | Comments(0)

清涼剤はSilicon Valleyの抜けるような青い空。そして・・・


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