「RITE ALPS国際シンポジウム―温暖化対策シナリオ・分析の最前線―」資料公開~♪
2012年 03月 04日
■挨拶 関総一郎, 経済産業省大臣官房審議官(環境問題担当)
今年は新たな枠組みへのキックオフの年。
地球規模での削減をすすめていきたい。
京都議定書第一約束期間の目標達成に向け、努力を継続する。
■“我が国のエネルギー政策と温暖化対応戦略”(茅陽一, RITE理事長)
再生可能エネルギーが大量導入されれば、平滑化効果が現れるということが言われているが、ドイツではそのようなものは少ししか見られない。そのため、調整がとても大変。
日本は、原子力を含めた「ベストミックス」こそ、とるべき道ではないか。原子力は少なくとも発電電力量の20%は維持すべき。
■ “世界のエネルギーの見通し:脱炭素と効率革命” (Nebojsa Nakicenovic, IIASA副所長 )
世界で一番貧しい人が、一番高いエネルギーコストを支払っている。(サハラでは50円/kWh)
ガスハイドレートの埋蔵量はCO2で換算すると100,000Gt-CO2であり、石炭よりも桁違いに多い。
欧州では大量のエネルギーが必要とされている地域・都市が分散しており、集中型は必要ではあるものの、分散型で賄えるところもある。
アジア版スーパーグリッド(中国-韓国-日本というラインでの電力線連結構想)、圧縮空気による深海ポンプ貯蔵構想などの紹介。
気候変動対策とエネルギーセキュリティ対策、汚染・健康対策をセットで実施することで、その対策コストを下げることができるという研究の紹介。
■“水分野における気候変動への適応策”(沖大幹, 東大生産研教授)
気温の上昇により、水が膨張し、海面が上昇するというメカニズムで、海面上昇の半分くらいを占めている。
島嶼国では、海面上昇で、淡水レンズ(淡水が溜められている部分)が小さくなり、淡水が確保できなくなる虞。
気候変動の間接的な影響として、雨が多いところはさらに多くなり、乾燥しているところはより乾燥するようになる。温暖化による水資源が増えるということもあるということに対して、中国・アフリカが反対した結果、IPCCの第4次報告書(AR4)のポリシーサマリーには掲載されなかった。
緩和策(CO2排出量削減)+適応策(被害軽減)の両方が必要。第5時報告書(AR5)では、Move from “it’s real” to “here is the information you need to make good decisions for your stakeholders”というスタンス。すなわち、「将来起こるんだということを示すのではなく、意思決定に必要な情報を示す」という方向で取りまとめられつつある。
■“エネルギー・環境モデルの比較:過去、現在、未来”(John P. Weyant, スタンフォード大学 教授)
将来予測ではなく、知見を得るためにモデル分析が使われるべき。
■“地球温暖化のリスク管理と将来枠組み”(杉山大志, 電中研社会経済研究所上席研究員)
温暖化問題を相対的に理解すべき。温暖化とは関係なく自然変動は起こっており、その影響を受け、それに適応してきたという事実と、温暖化による影響を比べると、前者のほうが大きい。
例えば関東大震災(1923年9月1日)では、丹沢山地は1m低くなり、房総半島南端は4mも高くなった。東日本大震災でも陸域が移動し海面が上昇したのと同じ影響を受けている。
人間の介入の影響も大きい。東京とは、50年で4mの地盤沈下。また、昔、日本は、農業により禿山だらけだったが、その後、植林して、木で覆われるようになった。米の品種改良も冷害と戦う形で実施され、5年程度で新品種に置き換わるくらいのスピードで実施されており、日本は十分に適応してきた。温暖化しても、収量が増えるので、影響は少ない。
2050年から2100年頃に2~3℃上昇しても、日本が温暖化によって受ける影響は、人為的改変や自然変動の影響に比べ、相対的に小さい。その上、これまでの防災・農業技術などで適応可能。
排出削減による影響軽減幅は、温暖化影響の科学的不確実性の幅に比べて、とても小さく、温暖化なんて「犬のしっぽ」みたいなものに過ぎない。排出削減は進めるべきだが、2020年25%削減などといった数値は閾値ではなく、リスク管理の指標に過ぎない。むしろこれらの数値が野心的過ぎて、国際交渉の失敗等、具体的な政策実施を阻んできたので、現実的な数値に見直すべき。
■“環境アウトルック2050-気候変動を中心に”(Rob Dellink, OECD上席研究員)
2℃目標達成のためには2050年までに$325/tCO2まで炭素価格を増加させる必要がある。
■“気候変動対策および持続可能な発展に向けたエネルギー史からの教訓”(Arnulf Grubler, IIASA 技術進化プログラム リーダー)
気候システムと技術イノベーションの両者に関する大きな不確実性は避けられない。体系的な歴史的分析により、エネルギー使用の変遷を引き起こす機会をつくるパターンを観察すべき。
小規模な技術から大規模な技術への変化には長い時間がかかる。また、市場成長にも時間がかかる。逆に、後から技術を採用することで、アドバンテージを得ることもある。
■“低炭素社会に向けた建築・都市のサステナブルデザイン”(村上周三, 建築研究所, 理事長)
建築分野には、大きな削減ポテンシャルが存在。しかし、価値観が変わらないとうまくいかない。そのためには、「non-energy benefit」が必要。例えば、断熱住宅に住むことによって、エネルギーコストが下がるだけでなく、快適性・遮音性が向上し、健康にもなるということから、医療費が削減できるといった便益を享受できる可能性がある。
■“地球温暖化対応と持続可能な発展の総合シナリオ-ALPSシナリオ”(秋元圭吾, RITEシステム研究グループ グループリーダー)
シナリオ分析では、現実社会で観測される割引率を用いたものと、温暖化対策で理想に近い割引率を用いたものを実施。
現実社会では、技術普及を妨げる様々な障壁が存在しており、炭素価格付けでは相当高い炭素価格をつけない限り大きな削減は困難。長期の投資判断ができるような社会変化が重要。一方で、技術普及障壁除去に力点をおいたボトムアップ的なアプローチによって、温暖化対策で理想に近い割引率を用いるような対応は可能であり、きめ細かい基準策定などの政策・対応は重要。