『脱原発は可能か』(著・山本隆三、発行・エネルギーフォーラム)読了〜♪)

『脱原発は可能か』(著・山本隆三、発行・エネルギーフォーラム)読了〜♪)_a0004752_13593535.jpg「脱原発は可能か」(山本隆三・著、エネルギーフォーラム)は、実務家的なセンスで書かれたものなので、一部を除いてほとんどの部分は電気事業に従事する人にとって違和感のないものとなっている。本の紹介としては、

原発なしで電力供給が出来るのか、太陽光発電、風力発電にはどこまで頼ることができるのか、その費用はいくらなのか、電力の自由化を行えば発電設備は増えて、電力料金は下がるのか、今後の温暖化対策はどうすれば良いのかなどの論点を、欧米の例にも触れながら考える。電力の安定供給を安いコストで行う魔法はなさそうだ。

と書かれていて、内容は以下のとおり。

序章 電力料金を考える
第1章 世界を支える石炭火力発電所
第2章 知られていない日本の電力事情
第3章 将来の電力供給はどうなる
第4章 電力と地球温暖化
第5章 再生可能エネルギーへの過度の期待

著者は、京大卒、住友商事の石炭部副部長、地球環境部長を経て、プール学院大学の後、現在は、富士常葉大学に所属されているということで、石炭の部分や、温暖化の部分は、かなり熱がこもった書かれ方になっている。

ただ、大きな論理の飛躍があると感じられた部分がある。それは、再生可能エネルギー導入のために、送電線の運営を一体化する方法として、東日本電力や西日本電力の2電力体制にするという案が示されているところ。体制を変えても、原子力が使えなければ、廉価な電気は圧倒的に不足するので、大変であることにかわりはない。

ちなみに、現在の日本の電力系統はエリア毎に大きくまとまりがあり、すぐに一体運用をすることは難しい。電気は貯めることが難しいので、最後の最後は、瞬時瞬時に需要と供給を合わせることで、周波数を合わせなければならない。今は電力会社がエリア毎にやっていて、いくら送配電網が“賢く”なったところで、人の手が必要。そのため、逆に、需給をうまく調整できる範囲は限られている。

設備的に余裕があれば、調整はより容易になるが、それでも、本書のまえがきの部分にかかれているように「いつも需要に応えることができる発電設備を、そう簡単に、短時間で、大量に導入することはできない」わけで、周波数の調整をしたり、足らない電気を補ったりする設備は、そう簡単にはできないし、もし仮にできたとしても、それを給電指令のもとで動かせるかどうかは、また別の問題が存在する。

そういう知見があれば、体制の問題が決定的ではないことは明白なのだが、そこまでの視点で問題に触れられていないところが惜しい気がする。

それ以外はほとんどが非常に合理的かつ実務的に理解できる内容となっている。電気事業制度を語るのであれば、一度は読んでおくべき一冊であろう。
 
by yoshinoriueda | 2012-04-29 14:40 | エネルギー・環境 | Trackback | Comments(0)

清涼剤はSilicon Valleyの抜けるような青い空。そして・・・


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