記事クリップ:ビッグデータによる需要予測(コマツKOMTRAXの例)

日経 2014/3/18「34万台の建機を監視 コマツの命運握る分析組織

ビッグデ-タを基に販売量の最大化、流通在庫の最適化、安定した生産を追求する建設機械(建機)大手のコマツ。国内競合と比較して5ポイント近く高い利益率を誇る。各国で稼働している34万台以上の建機のリアルタイムな稼働状況などを監視し、収益を左右する各種の分析を手がけるのは、大阪工場内にオフィスを構える精鋭部隊だ。新たな課題も見えてきた。

コマツの大阪工場の一室、壁側には4台の大型ディスプレ-が並び、世界各地の工場ラインなどのリアルタイムの映像が届く。その前に席を置くスタッフらのパソコン画面には、機械稼働管理システム「KOMTRAX」を通じて集まる世界の34万台以上の建機の稼働状況、流通在庫や日々の販売量といった様々なチャ-トが映し出される。

コマツでは、これらデ-タの分析結果などを判断材料として、経営陣が生産台数の増減を決める。ビッグデ-タ活用の巧拙が同社の収益を大きく左右するようになっているのだ。

このグロ-バル販生オペレ-ションセンタは、4部署(建機マ-ケティング本部建機経営企画室および同ICT事業本部、生産本部生産管理部、情報戦略本部)から実務経験者が集められている数十人規模の組織だ。「所員は統計学の基本を押さえており、数字に強く、表計算ソフト(Excel)を使いこなせる」と、同センタ所長の西脇智彦生産本部生産管理部長は話す。

■流通在庫を最適化する体制

マ-ケティング本部と生産本部の精鋭が、建機の稼働状況や日々の販売状況といったビッグデ-タを基に対等に意見をぶつけ合い、コマツの工場の生産計画に反映させて流通在庫の最適化を推進していく司令塔の役割を担っている。販売と生産が一緒になったユニ-クな組織だ。
この組織が作られたのは2011年。理由は2008年9月の「リ-マンショック」による世界的な景気後退によって、建機の在庫が膨れ上がってしまった反省からだった。当時、KOMTRAXによって稼働状況はリアルタイムにつかんでいたものの、流通在庫の数量や日々の販売状況を正確に把握できていなかったのだ。
当時社長だった野路國夫・現会長の指示で、流通在庫はすべてコマツの資産にした。代理店が所有する形だと流通在庫が正確に把握できないからだ。その結果、一時は18,000台もあった流通在庫を約1万台まで削減し、以後適正化を図ってきた。

さらに日々の販売状況を把握することにした。既に中国の建機代理店では実施していたが、他の国の代理店にも日々の販売量を報告させるようにしたのだ。現状で中国と日本を除く地域ではまだ100%ではないが、以前に比べると販売状況が正確に把握できるようになった。

センタを作る前はマ-ケティング本部が「売ります」、生産本部が「作ります」と言っても計画通り実現しないことが多かったという。設立後は、最新の販売デ-タなどが正しい意思決定を支援する。

同センタを象徴するのは4つの大画面ディスプレ-だ(本記事冒頭の写真を参照)。左端の画面には、世界にあるコマツの工場内部を映したカメラ画像が表示されている。生産ラインのある部分をズ-ムアップでき、ラインが予定通り動いているかどうかを把握できる。部品の欠品によるライン停止も分かる。

左端から2番目の画面では、受注した製品の組み立てから輸送(陸上と洋上)、顧客への納品までの進ちょく状況が表示されている。進ちょく状況は国内の代理店に公開しているほか、2014年度には海外の代理店にも公開する計画だ。

右端から2番目の画面は「グロ-バル販生コクピット」。紛争地域を除く世界の約96%で販売された台数が表示されている。そして、右端の画面はKOMTRAXのデ-タだ。GPS(全地球測位システム)を付けた世界で34万台以上の建機の稼働状況がリアルタイムで表示されている。BI(ビジネスインテリジェンス)ツ-ルを使って、日次や週次、月次の単位や地域別、顧客別、機種別などで算出できる。

■最終決定は全社販生会議

こうしたデ-タの分析などを基に、建機の販売見込み台数(翌月)と当期末までの販売台数予測、翌月月初の生産台数などを決めるのは、毎月開いている全社販生会議だ。コマツにとって最も重要な会議の1つとなる。議長は、建機マ-ケティング本部長の篠塚久志取締役と生産本部長の高橋良定専務執行役員。司会は西脇所長が務めている。販売や生産の関係者や最高財務責任者(CFO)などが参加する。

会議では例えば、大口商談が確定していない時に、生産に着手するかどうかについて最終的な判断を下す。大口商談が確定する可能性は、さすがにデ-タでは分からない。販売担当者の感触といった定性情報に頼ることになる。

全社販生会議の結果は、西脇所長が大橋徹二社長に直接説明する。問題があった場合は、大橋社長から建機マ-ケティング本部長や生産本部長に指示が出る。全社販生会議の情報を経営に直結させているのだ。「当社の経営トップは歴代、デ-タに対するこだわりが強く、細かいデ-タまで見ている。異常を見つけると、『ドリルダウンして調べろ』という指示が来る」(西脇所長)という。

■精度を上げる「次の一手」に着手

ただし、デ-タ活用による予測は容易ではない。

昨年(2013年)、新興国の成長鈍化や天然ガスへのシフトに伴って石炭などの資源価格が下落しているのに、インドネシアなどの鉱山の稼働時間が落ちていなかったので、建機の販売は減らないと判断した。ところがその後販売量が激減し、10月28日に同年2回目の業績予想の下方修正を余儀なくされたのだ。2014年3月期の連結営業利益(見込み)は前期比1%減の2100億円と、従来予想だった同44%増の3,050億円から一気に950億円も下げた。

需要予測の精度を上げていくには、新たな手段や戦略が必要になる。既にコマツでは、この課題を解決するために動き出しているという。

by yoshinoriueda | 2014-03-19 08:41 | エネルギー・環境 | Trackback | Comments(0)

清涼剤はSilicon Valleyの抜けるような青い空。そして・・・


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