『地球温暖化とのつきあいかた』(杉山大志)は恋愛指南の本ではない。しかし、必読の一冊。

『地球温暖化とのつきあいかた』(杉山大志)は恋愛指南の本ではない。しかし、必読の一冊。_a0004752_9363562.jpg杉山大志氏の『地球温暖化とのつきあいかた』は、「つきあいかた」とあるが、恋愛指南の本ではない。

しかし、『地球温暖化』を女性と見立てたらどうだろう。

欧州、日米、新興国、途上国それぞれの立場からの見方の違いがあるように感じる。


男児・欧州は、「彼女はとても『カネがかかる』女だ」といい、価格メカニズムを導入して、その気にさせることが大事だという。男児・日米は、「いやいや、彼女は『ありのままで』良くって、オレたちが何をしてやれるかが大事なんだ」といい、新しいテクニックで、その気にさせることが大事なんだという。男児・新興国は、「オレの彼女を堕落させたのは、日米欧なんだから、その責任をとって慰謝料をよこせ」という。男児・途上国は、「いやいや、もう美人なんて眩しくって。それより日々の生活をどうするかのほうが大事なんだから、なんとかしてくれ」という。



この本には、そんなことは一切書かれていない。



ただ、世の中で言われていることを、「杉山節」で綴っているだけだ。そして、最後に、杉山ワールドに引き込もうとする。かといって、新興宗教の類の本でもない。

とにかく、どこで言われているかということを丹念に調べ、出典を記載している。IPCC報告書からの引用には網掛けがなされているほどの念の入れようだ。たとえば、p98では、
人々がもつ温暖化の悪影響への懸念とは、実態としては、「世界が人間によって作り変えられてしまう」という概念への、審美的ないし心情的な嫌悪感ではないかと思っている。
という考えに対して、
人は誰しも、慣れ親しんだ風景に愛着があり、それを喪失すること、あるいは喪失するかもしれないと考えることすら、耐えられないほど嫌なことであり、しばしばうつ病などの形で人々の健康を害することさえある
という記載で補強し、その出典『進化精神医学 - ダーウィンとユングが解き明かす心の病』(スティーブンス, A. ・プライス, J.S., 世論時報社, 2011)を記載している。実際、私も、以前住んでいた実家の桜が切り倒されることになったときには、「もう帰る場所はないんだな」と感じたことがある。桜の木は、生まれた頃に植えられたもので、いつも誕生日の頃には、きれいな桜の花を咲かせてくれていた。そういう個人的経験だけで綴るのではなく、少なくとも他の人たちがそういうことを研究しているということを示しながら、本文を綴っているというところが丁寧だと思える。

また、「ツバルの危機」の本質が、「じつは温暖化ではない」こともⅢ章に記載されている。耳障りのいい言葉にだまされてしまう、イメージだけで語る人たちには、是非読んでもらいたいところだ。

さらに、これから議論がなされるであろう日本の具体的な数値目標についての言及もある。p240では、
いまの日本は「野心的な数値目標を軸にする」という形では、国内的なコンセンサスを得ることも、一貫した国際交渉ポジションを形成することも不可能である。
 これはピンチであるが、転じてチャンスにもできる。日本は、コミットメントのあり方そのものを、国内の削減目標だけではなく、概念的に拡大した「行動へのコミットメント」に変えるべきである。それは国益に利するのみならず、実は温暖化問題全体の解決のためにも、よろ本質的なものになる。
と述べられている。個人的に唱えてきた考え方と同じであるから納得できるし支持できるというにとどまらず、実際に、現実的な路線でこの問題を解決するためには、「行動」へのコミットメントこそが大事であり、それを継続することが大切である。

政治家も、官僚も、分かっている人はそれが分かると思うが、旧態依然の考え方しかできない人には理解できないかもしれない。その急先鋒が、マスコミであり、環境派と言われている学者であり、環境には実際に役に立たないようなことばかり唱えるユートピア主義的な環境NGOである。

国際交渉の現場で起こっていることにも触れられており、温暖化に興味・関心がある人は、是非読むべき一冊だと思う。オススメ~♪

『地球温暖化とのつきあいかた』(杉山大志)は恋愛指南の本ではない。しかし、必読の一冊。_a0004752_9363562.jpg
by yoshinoriueda | 2014-10-13 09:45 | エネルギー・環境 | Trackback | Comments(0)

清涼剤はSilicon Valleyの抜けるような青い空。そして・・・


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