「差金決済型」というところが誤解されているFIT-CfDに関する記事
2014年 12月 12日
原発の新たな優遇策が検討されている。経済産業省の総合資源エネルギー調査会原子力小委員会で議論されている差額決済契約(CFD)がそれだ。とのこと。
CFDはイギリスで導入された制度で、固定価格での電力買い取りを一定期間保証するものだ。買い取り価格は使用済み核燃料処分や廃炉など、将来費用も含む総コストを勘案して算出される。イギリスで適用が合意された原発は一つだけで、買い取り基準価格は1キロワット時15円ほど。陸上風力発電より高価で、保証期間も35年と長い。…
こうした政策を導入することには、様々な異論が出ている。
第一に、買い取り価格が電力料金に転嫁され、消費者の負担が増える可能性が高い。報道によると「(日本で)原子力CFDを既存の原発に適用すれば賦課金総額は年間3兆円を超える計算で、現在の電力料金の代替燃料費負担とほぼ同額」である。...(「原発の『本当のコスト』が見えてきた」選択12月号)
第二に、決定過程が不透明である。...第三に、こうした政策では、経営努力をしない電力会社のほうが有利になる。...
「低廉」ではないことを電力会社と経産省が事実上認めたいま、首相に原発保護が必要なのかを語ってほしい。(歴史社会学者)
「『低廉』ではないことを電力会社と経産省が事実上認めた」という事実がどこにあるのか分からないのだが、引用されている「原発の『本当のコスト』が見えてきた」(選択12月号)という記事があまりにも酷い。それに気づかない著者もヒドいと言えばそれまでだが、自分の頭で考えずに、他人の主張を引用しているだけなので、まあ、仕方がないか。しかも、歴史社会学者だから、数字には(滅法)弱いのかもしれない。著者のことを知らないので、何ともいえないが。
さて、「選択」という雑誌の記事はどこがヒドイのか?
まず、想定レートが1ポンド=170円程度になっているというのはご愛嬌だろうか。
英国のヒンクリーポイントCというサイトで差金決済型固定価格買取制度(FIT-CfD: Feed-in-Tariff with Contracts for Difference)の基準価格は92.5ポンド/MWh。為替レートを2008年頃の1ポンド170円程度とすると、記事にあるように15.7円/kWhとなる。ちなみに、最近のレートの水準として、仮に145円程度とすると、13.4円/kWhとなる。
それはともかくも、根本的な間違いは「賦課金総額は年間3兆円を超える」という部分。FIT-CfDは、差金決済型なので、基準価格(ストライクプライス)との差を決済するという仕組み。価格水準自体がポイントではなく、収入となる売電価格が固定されることがこの仕組みのポイント。このFIT-CfDは単なるFIT(固定価格買取制度)ではない。そこが誤解されている。
では、賦課金総額はどの程度と見ればよいのか。総額は「数量」×「単価」で計算できる。
数量を計算する前提として、以下の仮定を置く。
・日本全体の原子力発電設備容量 3,500万kW
・8760時間/年
・稼働率70%
このすべての数字を掛け合わしたものが「数量」(原子力発電設備から生み出される電気[kWh])となる。
「数量」=日本全体の原子力発電設備容量3,500万kW×8760時間/年×稼働率70%=2,146.2億kWh
賦課金を計算する前提として、以下の仮定を置く。
・基準価格 15.7円/kWh
・平均取引価格 15円/kWh
ちなみに、平均取引価格は日本卸電力取引所(Japan Electric Power Exchange,略称 JEPX)の取引情報:スポット市場にデータが公開されているが、今年のデータを見ていると平均取引価格は15円台前半というところなので、それほど変な仮定ではないだろう。
差金決済型のFIT-CfDではこの基準価格と平均取引価格の差が「単価」となる。差はこの場合、15.7-15=0.7円/kWhなので、
「単価」=0.7円/kWh
この前提の下では、賦課金総額(年額)は、以下のようになる。
賦課金総額=「数量」×「単価」=2,146.2億kWh×0.7円/kWh=1,502.34億円
記事では「3兆円を超える」と言っているが、これは、「単価」を15.7円/kWhとした場合の話。FIT-CfDの場合は「3兆円」ではなく、この前提条件では1500億円という規模のお金が原子力発電事業者に流れることになる。これはある種の支援策ということになるのかもしれない。しかし3兆円規模ではない。この場合は1500億円規模だ。
ちなみに、為替レートの関係で、基準価格がもう少し低い水準になるとどうなるか。15.7円/kWhは1ポンド170円程度の場合だが、1ポンド145円程度とすると、13.4円/kWh程度になる。この前提では、平均取引価格(市場価格)が15円/kWhなので、試算すると、「単価」は、13.4-15=マイナス1.6円/kWh。つまり、市場で電気を売ると同時に、1kWhあたり1.6円のお金を原子力発電事業者が支払うことになる。電気を供給するのに加えて、お金まで渡すという状態になってしまうのだ。ちなみに、この場合の総額は、
総額=「数量」×「単価」=2,146.2億kWh×マイナス1.6円/kWh=マイナス3,433.92億円
つまり、年間3,400億円規模のお金が電気代の中にばらまかれることになる。こんなバカな話はない。(いや、あるのかな?財務省あたりが、財源として使うとか?まさかね~)
つまり、差金決済型固定価格買取制度FIT-CfDは、価格水準次第で、原子力支援策にもなりえるし、支援策どころか財源捻出装置?!にもなりえる。「原発保護」でもなんでもない。こういう仕組みをきちんと理解せずにガタガタ騒ぐマスコミや、誤解したままの記事を垂れ流すメディア(『選択』や朝日新聞)や人物は信じるに値しないってことで。(ま、もともと信じていないけどね~www)
「英原発補助金めぐり提訴へ オーストリア、EU相手に」
更新日時:2015年4月4日(土) PM 04:16
【ウィーン共同】英政府の原発補助金支出を欧州連合(EU)が認めた決定に対し、憲法で原発建設を禁じるオーストリアが「市場競争をゆがめる」と反発、5月にもEU司法裁判所に無効確認の訴訟を起こす。英政府は「内政干渉」(キャメロン首相)と主張、対抗措置を警告したとも報じられ、両国の外交戦に発展しそうな気配だ。
「われわれは誰の脅しにも屈しない。持続可能でも、再生可能でもない原発への補助金には明確に反対する」。オーストリア首相府の担当者は共同通信の取材にこう強調した。