日本も同じ轍を踏むこととなるか:ドイツ、再生エネ3割超す 脱原発決定5年 廃炉費用が課題
2016年 06月 07日
ドイツ政府が2022年までの脱原発を閣議決定し、6日で5年を迎えた。国内の発電量に占める原子力発電所の比率は10年の22%から15年に14%まで低下、電力大手は事業モデルの組み替えを急ピッチで進める。再生可能エネルギ-の比率は30%を超え、課題の石炭火力依存度は少しずつ低下した。脱原発は順調にみえるが、廃炉の進め方など課題も残る。とのこと。日本も同じ轍を踏むこととなるか...
「消費者に向いたビジネスモデルに転換する。これは避けて通れない」。独電力最大手、エ-オンのヨハネス・タイセン社長は最近こう繰り返している。環境派に「原発に頼り、保守的だ」と批判された以前の姿から想像もつかない発言だ。
同社は今年、火力発電所や燃料トレ-ディング部門などを分社化し、原発も別会社に。収益が見込める風力発電などと、顧客の省エネ提案につながるIT(情報技術)投資で収益拡大を狙う。
メルケル政権は11年3月の東京電力福島第1原発事故を受け「エネルギ-政策を根本から変えねばならない」と、1度は自らが覆した脱原発に回帰した。国内18基のうち、まず運転開始から30年以上たった7基と点検中の1基がとまった。
エ-オンは15年6月、南部にあるグラ-フェンラインフェルト原発を停止。エ-オンや独RWEなど電力大手は核燃料税を払い続けることを不服として政府を訴えたが、脱原発そのものには異を唱える声は聞こえない。
原発を埋め合わせたのは再生エネ、そして石炭火力(褐炭含む)。再生エネは政府補助が減ったが、発電機メ-カ-の競争で導入コストも低下。15年の発電量に占める再生エネの割合は5年で10ポイント上昇した。
国内で潤ったシ-メンス、エネルコンなどドイツの風力発電機メ-カ-は輸出攻勢をかけ世界シェアでも上位に食い込む。国内太陽電池メ-カ-は淘汰され産業政策として失敗ともいわれたが、家庭の屋根に設置する自家消費目的の太陽光は普及。独ダイムラ-が余剰電力をためる定置型電池を販売するなど裾野の産業は勃興してきた。
課題は発電量の4割強を占め、二酸化炭素(CO2)排出量が極めて多い石炭火力の扱いだ。原発停止で一時的に増え、国外から批判されたが14年から比率は低下し始めた。政府も産炭地の雇用に配慮しつつ石炭縮小にかじを切る。
電気料金は11年上期から15年下期の間で約16%上昇した。再生エネ普及の費用を上乗せする賦課金と原油高が効いたためだ。もっとも国内世論は賦課金の水準は適正との声が多く、コスト増は許容している。原油安で料金は14年から下がった。
産業界に「再生エネ普及を急ぎすぎないように企業負担とバランスを求める」(独産業連盟)とけん制する声があったが、この間に輸出がけん引し経済は好調だったため空洞化の動きはない。
今後の焦点は具体化してくる廃炉だ。4月末、政府の諮問機関は原発を持つ電力会社の負担は総額233億ユ-ロ(約2兆8千億円)と試算した。ただ、これ以上膨らむ可能性が指摘され、国民負担になる恐れがある。
ドイツは官民を挙げて廃炉のノウハウを輸出産業にしようとしている。まだ見通せない電力会社・国民の負担と、廃炉ビジネスで得られる「国富」のどちらが勝るのか。ドイツの模索は続く。