ますます貴重になるエネルギー

2007/11/15付けの電気新聞「電力・ガス業界、原油高騰の影響を注視-燃料費調整は「上限」あり、LNGへの波及も必至」という記事によると、
米国産WTI原油が1バレル=100ドル近傍まで高騰する中で、燃料価格の上昇が電力・ガス業界にも影響を与えている。原重油やLNG(液化天然ガス)などの価格上昇分は燃料・原料費調整制度で基本的にはカバ-できるが、短期的に収益を圧迫する要因となる。渇水や原子力停止などによる火力発電のたき増し(増加)分は発電原価の差がそのまま負担増につながる。原油高騰が長引けば将来的にLNG価格への波及も懸念される。・・・

電力会社は1次エネルギ-のユ-ザ-であり、70年代の石油危機以降、電源多様化などを進めてきた。このため、石油・ガス会社ほど直接的に燃料価格の変動による影響を受ける訳ではない。また、燃料費調整制度によって価格上昇分は基本的に電気料金に転嫁される仕組みとなっている。ただ、渇水や原子力停止が続くと火力発電で代替するため、化石燃料の消費量が増える。この結果、水力や原子力との燃料価格の差が負担増となる。さらに燃料価格の上昇が加わると、電力会社の収益を圧迫する要因となる。

電力各社が先月末に発表した07年度中間決算では、10社計の上期の燃料費が前年同期から29.4%増加。その影響で、中部を除く9社が軒並み経常ベ-スで減益となった。特に、柏崎刈羽や志賀の原子力停止が響く東京や北陸は前年同期から4割超増加し、火力発電のたき増し分が重荷となった。両社とも今年度中は原子力停止を織り込んでおり、燃料価格がさらに上昇すると収益面に一層厳しさが増すことになりそうだ。

燃料・原料費調整制度は6カ月後に調整額が電気・ガス料金に適用される仕組み。同制度で使われている通関統計によると、原油価格は07年に入ってから1バレル当たり57.5ドル(1~3月平均)、64.6ドル(4~6月平均)、71.0ドル(7~9月平均)と上昇。1kL当たりの価格も7~9月平均は53,137円となり、1~3月平均に比べて約23%上昇した。同様にLNG価格は約9%、石炭価格も約12%それぞれ上昇している。この結果、すべての電力・ガス会社では2・四半期連続(07年10月~12月、08年1~3月)で料金が値上がりすることになった。

燃料・原料費調整制度は消費者への急激な影響を緩和するため、料金の調整幅に上限を設定。電気料金は基準燃料価格の50%、ガス会社の場合は60%が上限となっている。仮に四半期ごとの平均燃料・原料価格が上限価格を超えた場合、超過分は電力・ガス会社が効率化などで吸収するか、もしくは料金改定を実施するかが想定される。

現時点では、電力・ガス会社とも上限価格に達するにはまだ余裕があるものの、先月値下げを表明した東邦ガスは、基準価格と平均価格の差が60%の上限値に近い52%まで達していた。エネ庁関係者によると、「中小ガス会社からは原料費調整制度の上限見直しなどの声も出始めている」という。

また、原油高騰が長引くとLNG価格への影響も懸念材料となる。LNGの長期契約では基本的に油価に連動した「Sカ-ブ」を基本として価格が設定されている。その一方で、既存の長期契約のうち複数案件では現時点でSカ-ブの上限に達していると見られている。

このため、現況の油価を直接反映させたい産ガス国側、「Sカ-ブ」の維持を図りたい電力・ガス会社の間では、価格の追加交渉が始まっている。最近ではカタ-ルなどで新規契約の価格を原油等価に設定する事例も出てきており、原油価格の高騰や長期化は既存のLNG契約の価格改定交渉などにも影響を与えそう。

WTI原油の相場は先週、1バレル=98.62ドルの史上最高値を記録。13日は一時1バレル=90.13ドルまで下落したものの、イランの核開発問題を巡り原油の供給懸念が強まれば、再び上昇に転じる可能性も指摘されている。
とのこと。

記事にもあるように、電力会社は電源多様化により、原油やLNGの影響を直接的に受けるわけではない。しかし、ガス会社は異なる。大手都市ガス会社の場合、LNGが原料であり、その価格の影響は直接的だ。

大阪ガスのウェブサイトによると、2006年度の大口単純平均価格は、使用量にもよるが、だいたい40円/m3(45MJ)台半ばから50円/m3(45MJ)台半ばといったところ。このガス価格に対して、大阪ガスの一般ガス供給約款の23によって原料費を計算すると35円/m3程度になるから、原料費の占める割合は販売価格の約7割程度になる。さすがに残り3割の経費部分でLNGやLPGの原料費高騰を賄うのは難しいだろう。

実際、大阪ガスは、大口部門で当期純損失が発生している。大阪ガスのウェブサイト上の「平成18年度の部門別収支における大口需要部門の当期純損失について」という情報によると、
平成18年度の部門別収支の計算において、大口需要部門に当期純損失が生じましたので、当期純損失金額および当期純損失が生じた理由を公表いたします。

【当期純損失金額】
・事業年度 平成18年度(平成18年4月1日~平成19年3月31日)
・純損失額 1,509,530千円

【当期純損失が生じた理由】
平成18年度はLNG価格の高騰により原料費が大幅に上昇しました。これに対し原料費調整制度を適用し、原料費の変動をガス料金に一部反映しましたが、LNG価格の高騰による影響を完全には吸収できず、原料費の未回収が発生いたしました。
当社では、このような状況の下で一層のコストダウンに取り組んでまいりましたが、原料費の未回収による減益を補うまでには至らず、当期につきましては純損失が生じることとなりました。
とのこと。これは、小口、つまり規制されている家庭用のガス販売から集めたお金で、産業用など自由化されている大口のガス販売の赤字を補填しているということ。大阪ガスだけでなく、広島ガスなども同じような構図になっている模様。

ちなみに、平成18年11月に基準平均原料価格は26,780円/トンから41,470円/トンに変更されており、顧客に転嫁できる上限は、42,848円/トンから66,360円/トンに変更されいている。大阪ガスのウェブサイトによると平成19年10月~12月に適用するガス料金の平均原料価格は「44,930円/トン」とのことであるから、料金改定をしていなければ、上限価格を上回ってしまい、大阪ガスはもっと赤字になっていた可能性があるということか...

いずれにせよ、エネルギーは貴重な資源。大半のエネルギーを輸入に頼っている日本では、市場の影響を受けるのは仕方ない。エネルギーの調達側であるガス会社や電力会社は、規模の経済を働かせたり、技術開発による効率化を進めたりしている。エネルギーを使う側・購入する側は、エネルギーというものが空気のようにタダではなく、貴重な資源だという認識と覚悟を持ってビジネスに向かうしかないと思うのだが。
 
by yoshinoriueda | 2007-11-15 19:19 | エネルギー・環境 | Trackback | Comments(0)

清涼剤はSilicon Valleyの抜けるような青い空。そして・・・


by yoshinoriueda
カレンダー
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31