「グリーン・ニューディール政策」で久しぶりに「イノベーションのジレンマ」を思い出した

オバマのグリーン・ニューディール政策に日本はどう対抗すべきか」に、先日の記事「東芝の太陽光発電システムインテグレータ構想」に関連した記述があった。
まずは,グリーン・ニューディールが具体的に何を行おうとしているのか,その検討から始めたい。

 一言で表現すれば「地球温暖化対策事業という名目で,大規模投資をすること」となるだろう。具体的には二つのポイントがある。一つは自然エネルギーの大量導入であり,もう一つが米国自動車産業のトヨタ化である。

・・・

 米国が自然エネルギーの導入をこのような長期的観点で実施することになれば,日本は確実に置いてきぼりになる。なぜなら現状の日本政府は財源不足で,民間活力を活用するとしか言いようのない状況であり,その頼りとすべき企業も状況は絶望的で,目前の利益しか考えられない状況だからである。

 それ以前に,日本には決定的に不利な状況がある。それは,まず土地が無いこと,そして気象が複雑なことである。米国には,アリゾナ州がありネバダ州がある。わずかな放牧ぐらいしかできない広い土地がある。ニューメキシコ州,ユタ州も似たようなものである。ここに目前の利益を度外視して大量の風力発電,集光型太陽光発電施設などを設置すれば,少なくとも発電施設量としては十分なものになる可能性が高い。

 現時点で日本に同様の大量自然エネルギー発電施設を導入したら,その数倍の発電容量をもつ化石燃料を使う高効率の火力発電所をバックアップ用として作る必要がある。それは,日本における自然エネルギーの揺らぎが非常に大きいことによる。

 特に日本の風力発電には大きな問題がある。普段は風が弱く,風向も常時,しかも複雑に変化する。さらに悪いことには,台風のような強風が年に何回か吹くことである。そのため,強度のマージンを相当に取る必要があって,設備と建設費用が高くつく。経済的に成立するのが難しい。

 もっとも,米国も日本より有利だとは言うものの,やはり自然エネルギー固有の問題が無いわけではない。アリゾナ州やネバダ州などの地域は日照時間が長いので,太陽光発電なら発電量も稼ぐことができるだろう。風力なら風の強さ・向きも比較的安定していることだろう。しかし,いくら日照時間が長くても,夜は来るし,雨も時には降る。

 そのため電力貯蔵技術,もしくは平滑化技術は必須である。この分野の科学技術開発に相当の投資が行われると,日本の省エネ技術などは吹き飛ぶだろう。

 繰り返すが,グリーン・ニューディールの怖さは「目前の利益を度外視して」投資が行われることである。特に,電力貯蔵技術,あるいは平滑化技術に対して集中的投資が行われることが怖いのである。21世紀最大の売り物になる技術開発が,米国主導になることが怖いのである。・・・
日本での自然エネルギー大量導入の困難性を踏まえつつ、オバマ氏の「グリーン・ニューディール政策」なるものにより、電力貯蔵技術あるいは電力負荷平準化技術が開発されるというシナリオを描いているが、もしこれが実現すれば、低炭素社会の基盤技術が米国により支配される可能性が一気に高まることになる。

風力や太陽光という自然エネルギーは、バッテリーなどの電力貯蔵技術と一体となり、その存在意義を増す。バッテリーの技術は、先日の東芝や三洋電機などが保有しているものもあるが、残念ながら、彼らはメーカーでしかない。

電力のインフラを構築し、運用する電力会社にとっては、大規模発電により、発電コストを抑え、安定的に電力を供給することが使命である。自然エネルギーという不安定な電源は、先の記事にもあるように、追加的な電源を作らなければならないので、「お荷物」になる可能性が高い。

ここにイノベーションのジレンマが存在する。消費者は、それほど高品質な電源を求めているのだろうか?半導体工場など精密機械があるところや、病院など生命にかかわる設備があるところはともかくとして、一般的な家庭の場合、それほど高品質な電源が必要になるだろうか?

もちろん、インターネットがこれだけ普及していることを考えると、パソコンを動かすために安定的な電源は必要だ。しかしそれも無停電電源を設置すれば、ある程度のところは対応できる問題かもしれない。

それよりも、各家庭が自然エネルギーとバッテリーを備え、ほぼ自己完結できるような電力インフラとなれば、それで話は事足りてしまうのではないだろうか。電力会社は、そんな自己否定的なことに注力はしないだろう。しかし、米国がもし先の記事のような方向に進んだとしたらどうなるだろう。そこには全く新しい全く違った世界が見えるような気がする。というわけで、久しぶりに「イノベーションのジレンマ」を思い出した次第である。

太陽光だけで問題が解決するかと思っていた時期もあった。おそらく、電力にアクセスできないところに対しては、太陽光だけでも、多少の問題解決になる可能性がある。ただ、そこにバッテリーが入ってきて、セットになると、もっと面白いワクワクするような異次元の世界になるような気がするのだが...
by yoshinoriueda | 2009-01-09 23:31 | エネルギー・環境 | Trackback | Comments(0)

清涼剤はSilicon Valleyの抜けるような青い空。そして・・・


by yoshinoriueda
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