第3回中期目標検討委員会を傍聴
2009年 01月 23日
地球環境産業技術研究機構(RITE)、日本エネルギー経済研究所、国立環境研究所、日本経済研究センターおよび東京大学から、日本の中期目標、すなわち2020年のCO2削減ポテンシャルと、その経済・社会に与える影響の試算結果が報告された。
地球環境産業技術研究機構(RITE)の試算では、
・削減ポテンシャル:'90年比0%~▲10%(CO2ベース)(GHGベースで▲6~16%)が妥当
・限界コスト:▲10%で$130/t-CO2
・基準年:'05年が妥当
・方策:原子力発電の拡大と火力発電の燃料転換
国立環境研究所の試算では、
・削減ポテンシャル:'90年比▲8、15、25%(GHGベース)を試算
・追加対策コスト:1.4~6.9兆円
日本エネルギー経済研究所の試算では、
・削減ポテンシャル:'90年比▲4%(CO2ベース)と試算
・必要投資額:長期エネルギー見通し最大導入ケース[pdf]で52兆円
'90年比▲25%まで対策を実施すると380兆円以上必要
日本経済研究センターの試算では、
・前提:炭素税 1万円/t-CO2
・削減ポテンシャル:'90年比▲11%(CO2ベース)と試算
東京大学の提案では、
・削減率:'05年比▲8%が目安、▲5~15%が現実的
といったところ。それぞれの試算結果や提案を実現するためには、政策で担保することが必要なのだが、いろいろな前提をおいたモデルによる想定なので、学者のお遊びみたいなところがある。特に、国立環境研究所は酷い。対策を実施すれば、省エネ効果が出るため、投資効果がスグに現れる方策があるにもかかわらず、それを実施しようとしないのは、知見がないからといった稚拙な理由を挙げていて、ビジネスの基本や心理を全く理解していない。政策担当者や、研究者の弱点はここにある。
挙句の果てには、「'90年比▲40%も、本検討のケースに入れてほしい」という全く馬鹿げた発言。数字のお遊びをするならば、勝手にやればよい。ただし、国立環境研究所は独立行政法人なので、そこで発生するコストには税金が使われている。そんな無駄なところに無駄な金を使わせる必要があるのか大いに疑問。環境省系の研究機関のようだが、調子に乗りすぎ。もっと他にやるべきことをやれ。発言を聞いていて、腸が煮えくり返った。
日本経済研究センターの主張も、机上の空論。炭素リーケージの問題を指摘しつつも、「海外が足並みを揃えてCO2規制を実施するなどして、価格面での競争条件が変わらないケースでは、リーケージが抑え込まれるほか、輸出の悪化を通じたGDPへの悪影響も小さくなる」とまとめているが、そもそも、「海外が足並みを揃えて」なんていう条件をたてること自体、机上の空論でしかありえない。経済モデルを回すことに精一杯で、世界情勢も、「前提条件の一つ」くらいにしか思っていないのだろう。論外。試算の意味なし。
面白かったのは、この日本経済研究センターが、日本エネルギー経済研究所の試算に対して、「価格メカニズム」が入っていないと指摘し、日本エネルギー経済研究所から、「そんなことは織り込み済み」と反撃されたことか。日本経済研究センターは、自分のことを棚に上げて、他人のことを批判して、赤恥をかいた構図となった。愚か。
日本エネルギー経済研究所の試算で参考になるところは、省エネが進み、技術が高いレベルにある日本で、追加的に1%さらに削減しようとしたときに必要となるコストが試算されているところ。そのコストの試算の中で、たとえば、粗鋼生産においては、追加的な削減は不可能で、生産量を落とすしかないというショッキングな結果が報告されていた。
ちなみに、粗鋼生産で追加的に1%削減するためには、生産量を約8%削減しなければならないようで、これは、付加価値額にすると約5000億円の減少、約10万人分の給与に相当するとのこと。
また、長期エネルギー見通し最大導入ケース[pdf]の一世帯における資金投入例としては、断熱工事や、高効率給湯器・太陽光発電・電気自動車の採用など約800万円の追加支出が必要になるとのこと。
日本エネルギー経済研究所の試算結果は、たとえモデルといえども、しっかりと認識しておくべきだろう。
なお、現実的な選択肢を示しているのは、誰が見ても地球環境産業技術研究機構(RITE)の試算結果だろう。これをベースに環境省、経済産業省、外務省などが連携して、国際交渉に臨むことになるというのが、今後の現実的なところではないだろうか。もちろん、それで国際的にすんなりと受け容れられるとは思えないが...
日本の温室効果ガス削減に関する中期目標は、企業の問題でもなく、政治の問題でもなく、役所の問題でもなく、学者の問題でもない。国民一人一人の生活にも関係する問題である。現実の生活は、モデルの中では再現できないし、心理やビジネスのメカニズムなどを無視した政策は、国を衰退させるだけだ。環境省系の理想論を叫ぶ輩は、そんなことも分からないだろう。冷静かつ地に足の着いた議論を望む。
参考:
温室ガス削減、中期目標4案 90年比6%増~25%減@Asahi.com
日本の2050年80%削減は非現実 技術・コスト分析でわかった 温暖化対策の現実@日経BP special
***以下、まとめ的参考資料***
第3回中期目標検討委員会で提示された削減目標量案等について
1.中期目標検討委員会について
中期目標検討委員会は、本年の然るべき時期に日本の中期目標を決定するため、内閣総理大臣が有識者を集めた「地球温暖化問題に関する懇談会」の下に、分科会として設置されたものであり、国民に選択肢を提示すべく、検討がすすめられている。
委員会は、委員長の福井・元日銀総裁、地球環境産業技術研究機構(RITE)の茅副理事長を含む9名の委員により構成されており、これまでに3回(11/25、12/18、1/23)開催されている。今後、2月上旬から3月上旬にかけて、産業界等からのヒアリングが実施され、中間報告がまとめられる予定。
2.今回議論がなされた主なケース
今回議論がなされた主なケースは、以下のとおり。
・ 長期エネルギー需給見通し「努力継続」ケース
・ 長期エネルギー需給見通し「最大導入」ケース
・ 1990年比▲15%、▲25%のケース
- ▲15%は、先進国全体で▲25%を削減する場合の日本の想定分担比率
- ▲25%は、IPCC第4次報告書「450ppm」のシナリオで示された数値
3.削減目標量の提案と各モデルの試算結果
(1)削減目標量の提案
技術の導入シナリオをもとに削減量やコストを試算する積み上げモデルによる試算結果に基づき、RITEから「'90年比0%~▲10%(CO2ベース)(GHGベースで▲6~16%)が妥当」、国立環境研究所(国環研)から「'90年比▲8、15、25%(GHGベース)とすべき」という提案がなされた。RITEの提案は、最大導入ケースを含むレベルとなっているが、国環研の提案は、全て、最大導入ケース以上の取り組みが必要となるレベルである。
(2)経済への影響試算
日本エネルギー経済研究所(エネ経研)は、長期エネルギー需給見通し最大導入ケースで52兆円、'90年比▲25%まで対策を実施する場合380兆円以上のコストがかかるという試算結果を提示。
慶応大学は、GDPへの影響として「±0%(努力継続ケース)~▲2%(:'90年比▲15%ケース)」という試算結果を、また、日本経済研究センターは、炭素税 1万円/t-CO2とした場合の削減ポテンシャルが「'90年比▲11%(CO2ベース)」となる試算結果を提示。
(3)その他
東京大学は、科学的知見に基づき、「450ppmのシナリオを実現するためには、日本は『'05年比▲8%』が目安となり、▲5~15%が現実的」と提案。
4.基準年の提案
RITEおよび東京大学は、「基準年は’05年とすべき」と提案。
以上