Malcolm Gladwell「Outliers: The Story of Success」(天才!-成功する人々の法則)を読んで(2)
2009年 07月 19日
■成功とは「累積するアドバンテージ」の結果
カナダのプロアイスホッケー選手は1月から3月に生まれた人が多い。イングランドのプレミアリーグのサッカー選手は9 月から11月生まれの人が多い。いずれも、学年の区切りを1月、あるいは9月にしている。グラッドウェル氏が推測するに、学年の区切りに近い月に生まれた人が「機会」を与えられる確率が高いということを意味しているのではないかということ。それは、何月に生まれるかということが、アイスホッケーあるいはサッカーなどの選手を選抜するシステムと相俟って、特定の時期に生まれた人に与えられる「機会」につながっているのではないかということである。「成功」とは、この「機会」を通じて得られる「累積するアドバンテージの結果」であるというのである。
■「一万時間の法則」
では、「累積するアドバンテージ」として、どれだけ積み重ねればいいのか?グラッドウェル氏は「1万時間」という。オラクルに買収されることになってしまったサン・マイクロシステムズを立ち上げた一人であるビル・ジョイ氏は、高校時代にコンピュータに触れ、楽しさを覚え、ミシガン大学に入学した。
ミシガン大学では、従来のパンチカードでプログラムをつくる方式ではなく、大型計算機をタイムシェアリングする方法に切り替えていた。そのため、ビル・ジョイ氏は、プログラミングに打ち込んだ。ジョイ氏に言わせれば、パンチカードとタイムシェアリングの差は、「郵送でチェスするのと、高速で指しあうスピードチェスの違い」であるとのこと。そうなれば、プログラミングは、苦行ではなく、「楽しいもの」になるだろう。
さらに面白いことに、タイムシェアリングのプログラムにバグがあったことが、ビル・ジョイ氏への「機会」を増やすことになった。「t=k」と打ち込むと、タイムシェアリングの制限となる課金システムから逃れられるということを誰かが発見し、それを使うことにしたのである。こうして、1日8~10時間、プログラミングに費やした。UCバークレーに入ったころには、昼夜を問わずプログラミングして、UNIXを改良するという仕事にとりかかるまでには、1万時間を越える経験を手にしていた。
ビル・ゲイツ氏も、同じように「機会」に恵まれていた。シアトルの裕福な弁護士と銀行家の娘の間に生まれたゲイツ氏は、中学からシアトルのレイクサイド校に通い始めた。1968年、ゲイツ氏が中学2年生の頃、レイクサイド校の母親会が、慈善バザーで得た金を使って、コンピュータクラブを設立した。しかも、ビル・ジョイ氏と同じ、 1965年に考え出されたばかりのタイムシェアリング方式を導入した。スゴイ先見の明だ!
その後、Cキューブド社やISI社、ワシントン大学からも「機会」を与えられ、高校を卒業するまでに1万時間以上のプログラム開発をしていた。ちなみに、いまだにビル・ゲイツ氏は、ワシントン大学に多額の寄付をし続けているという。
ビートルズも同じように、「累積するアドバンテージ」を持っていた。それは、ドイツのハンブルクでの演奏漬けの日々である。1964年2月にアメリカ上陸するよりも前の1960年、ビートルズは、ハンブルグのストリップ劇場で、一晩中、演奏するという「機会に恵まれた」のである。ブルーノというオーナーは、店の前を通る客を捕まえるために、何時間もぶっ続けでバンドに演奏させるという「ノンストップ・ストリップショー」という方式を採用していた。ビートルズは、このバンド演奏者として、ハンブルクで演奏を重ね、1964年の大ヒットまでに1200回もライブを重ねていたという。
いずれにしても、1万時間という時間は、1日9時間強×3年間という時間である。やり続けるには、のめりこむほどの楽しさを覚えていくことあるいは報酬があることと、体力がないとやってられない。
■時代が味方をしているかどうか
それに加え、確実に時代も味方をしている。パソコン時代の幕開けとなった1975年1月に20歳前後になっていれば、若すぎず、年老いすぎていないということになる。大御所の生年月日を見れば、
ビル・ゲイツ 1955.10.28生まれということで、ほぼ1955年前後に生まれていることがわかる。まさに、時代が味方したといえるのかもしれない。
ポール・アレン 1953.1.21
スティーブ・バルマー 1956.3.24
スティーブ・ジョブズ 1955.2.24
エリック・シュミット 1955.4.27
ビル・ジョイ 1954.11.8
スコット・マクニーリ 1954.11.13
ビノッド・コースラ 1955.1.28
アンディ・ベクトルシャイム 1955.9.30
■親が果たすべき役割=「実践的知能の付与」
ただ、機会があっただけでは、成功には結びつかない。状況を正しく読み、自分の望みを手に入れるための知能である「実践的知能」を持っていなければならない。これは、「一般的知能」とは、正反対ではないが全く異なる。実践的知能とは、「誰に何を言うかを理解し、どのタイミングで言うか、そして、どのように言えば最大の効果があるか」を理解し、実践する知能である。
貧困家庭の親は、権威を前に萎縮し、子どもの「自然な成長による結果」を待つ。中産階級の親は、積極的に「子どもの才能や考えや技能をはぐくみ、評価」しようとする。多様な体験の機会を次々に与えられ、組織の中でチームワークと対処法を学ぶ。大人と気持ちよく会話する方法や、必要に応じて自分の考えを相手に伝える方法を覚える。これによって、中産階級の子どもは「権利」意識を身につける。
この「権利」とは、みずからが優先的に扱われるよう追求する権利、そして組織の中で積極的に相手とやりとりする権利である。親が、対処法のような知恵を、労を惜しまず教え、促し、励まし、勇気づけ、ゲームのルールを教え、ときには、ちょっとしたリハーサルまでやるといったことが、子どもにとっての財産になるということだ。
まさにそれが親の役目なのかもしれない。
■「夏休みは天王山?!」
学習塾が使うキャッチフレーズに「夏休みは天王山」というものがある。天王山ってどこだ?!という人もいるかもしれないが、ともかくも、重要な役割を果たすということである。
貧困家庭と中流家庭、上流家庭の間には、夏休みの過ごさせ方に差がある。貧困家庭から中流家庭までは、夏休みに、子どもをさまざまなサマーキャンプなどへ入れる経済的な負担が許容できない。上流家庭では、十分な機会を夏休みに与えられる。このため、読む力という比較で言えば、夏休みの間に、中流の7倍、貧困家庭の200倍以上の差がつくことになるという。
これは日本でも同じかもしれない。夏休みといえば、お休みという考え方でいれば、それは成長の機会が著しく限られる。ところが、夏休み=別の学習をまとまってすることができる機会と捉えると、さらにそれは差を生み出す機会となる。今日から夏休みというところも多いようだが、子ども達の夏休みを考える上で、一つの参考になるかもしれない。
日本でも夏休みが始まった。勉強、就職、差がつくのはここから?!
「天才じゃなくても夢をつかめる10の法則!」という番組が読売テレビで放映されていた。ゴルフの石川遼選手や奇跡のピアニスト辻井伸行氏などの親がとってきた子育て方法を、最新の脳科学や教育学による理論で補いながら解説しているバラエティー系の番組だった。 1つ目の法... more