国際公共政策学会講演会「これからの日本の電力政策を考える」@大阪大学を傍聴〜♪

大阪大学の国際公共政策学会講演会「これからの日本の電力政策を考える」を傍聴。講師は、八田達夫氏(大阪大学招聘教授・学習院大学客員研究員)と橘川武郎氏(一橋大学大学院商学研究科教授)。

八田氏は、「リアルタイム市場を作って、需給バランスによって電力価格をリアルタイムで変動させればよい」という主張。価格メカニズムで需要は抑制されもするし、供給も増えるという考え方。

具体的にどれだけの価格になれば、そういう効果が出るのだろうか?電気というのは、価格弾力性が小さいと言われている。家庭用の電気料金は、例えば、関西地域では、従量電灯Aの第2段(120kWh超過300kWhまで)で1kWh当たり24円21銭である(関西電力ウェブサイト参照)が、需給逼迫時にいくらにすれば、それがどれだけ抑制されるのだろうか?

問題は、また別にあるかもしれない。それは、自分が今、どれだけ使っているか分からないということ、また、電気料金が翌月にならないと分からないということ。じゃあ、それが分かるようにすればいいじゃないかという話があるが、それなら、それを測るための機器は誰がお金を出して付けるのか?各家庭で負担するのか?それはいくらなのか?HEMSなどの機器を導入すればいいというが、そんなに安いものでもない。また、それで確認したからといって、その結果をもって電気代として請求することもできるかどうか分からない。計量法に基づいた計量器で取引を行う必要があるからだ。

八田氏の主張は、価格という指標で全ての物事が動くという世界においては正しいのかもしれない。しかし、実際の世界はどうか?もちろん違っている。それを理解した上で、政策に何をどう反映していくか。ここは、政治と政策の腕の見せ所。だが、果たして、そんなことを理解した上で、将来を見据えた判断ができる人材が、いまの与党および霞ヶ関にいるのかどうか。それは分からない。

橘川氏の考え方で面白いなぁと思ったのは、原子力を「引き算」で決めるべきというところ。現在は、原子力がベースロードとなっているということもあり、まず最初に原子力がどれだけ担えるのかというところが考え方のスタートになりがちだが、そうではなく、再生可能エネルギーでどこまでやるかということをまず最初に決め、次に、省エネでどこまでやるかを決め、石炭火力であってもどこまで減らせるかを見極め、最後に原子力が担う分を決めればよいのではないかという考え方。世間では、原子力や再生可能エネルギーに議論がいくが、結局最後は、火力発電でどうまかなうかという話になるという主張。一つの考え方として面白いと思う。

最後は、八田氏が、電力会社を徹底的に批判して終了。

お疲れさまでした〜

*****

以下、司会者 赤井教授によるまとめサイト 国際公共政策学会講演会「これからの日本の電力政策を考える。」より

ディスカッション内容

1)同時同量、リアルタイム制度の在り方について
(メリット、デメリット、安定性(リスク)、料金、停電)

八田氏:市場での限界費用による価格決定・取引システムの導入によって、より効率的な運用が可能となる。料金も下がり、停電も少なくなる。
橘川氏:同時同量を求める今の制度は硬直的で、より柔軟な制度構築は可能。

2)原子力発電の在り方について

八田氏:原発は、徹底的にコストや外部性を検証し、保険によるリスクマネイジメントも含めて、民間でリスクを取ってやれるかどうかを議論すべき。
橘川氏:原発依存は下げていくべきだが、国内炭火力とのバランスでは、脱原発は困難。

3)発送電分離の必要性について
(メリット、デメリット、安定性(リスク)、料金、停電)

八田氏:安定性を損なわずに、すぐにできること(市場の構築)はあるので、それをまずすべき、将来的には、発送電分離の道を探るべき。
橘川氏:まずは、電力会社間の競争を促す制度を作るべき。

講演会を終えての司会者コメント

八田氏は、公共経済学が専門で、ミクロ経済学に基づき、市場による調整能力のメリッ トを強調する。橘川氏は、歴史的な事実に基づき、すぐには、方向転換が図れないことを強調する。両者の意見は、一見、異なる部分もあるが、重なるところも 多い。両者の議論が重なる部分を中心に、ディスカッションでは、3点を挙げて、意見交換を行った。
両者の意見をまとめると、以下のように、方向性としては、ほぼ一致して いると言える。

1)現在の市場による需給調整(卸電力取引所JEPX)は、まだまだ活用の余地がある。

2)原発は、真に必要なコストを検証し、民間でやるというのであれば、保険制度も含めてリスクをとれるのかを議論すべき。低炭素社会との両立を考慮する限り、脱原発ではなく、再生エネ、火力エネの可能性を探りながら、原発依存を下げる方向を模索すべき。

3)発送電分離に関しては、(東電を除いて)、まずは、安定性を損なわずにできる競争構築を行うべき。将来的には、安定性を確保しながら、真の競争に向けて、発送電分離の可能性を探るべき。

要するに、両 氏の意見は、安定性を損なわずにより効率的に運用できるシステム構築の可能性が秘められているにも関わらず、そのシステムの検討・導入を積極的に行ってこ なかった電力制度への警鐘であり、もし、そのシステムに大きな問題があり、導入ができないのであれば、それを説明する責任は、その制度導入に積極的ではな い旧来の政府、電力会社側にあるといえよう。それをしてこなかった背景には、「安定性があれば、さらなる効率的制度設計を行わなくてもよい、現状でよい」 という甘えの部分もあったであろう。

責任主体に対して、真に望ましい制度は何であるのかを国民に説得的に示すことを、期待したい。

by yoshinoriueda | 2012-01-12 23:56 | エネルギー・環境 | Trackback | Comments(0)

清涼剤はSilicon Valleyの抜けるような青い空。そして・・・


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