「忘れられたルーツ」(2)“エコノミストは収益極大化を目指し、技術者は最大損失の極小化を目指す”

「忘れられたルーツ」(2)“エコノミストは収益極大化を目指し、技術者は最大損失の極小化を目指す”_a0004752_2154243.jpg忘れられたルーツ 電力産業120年の浮沈とこれからの100年Forgotten Roots: Electric Power, Profits, Democracy and a Profession)』(ジャック・カサッザ(Jack Casazza))では、技術者を政策決定プロセスに含めることの重要性が強調されている。

政策決定の手続きは二段階に分解することができる。第一に、純技術的見地に立って、最も悪影響が少なく、最も利便が大きくなる解決策を見出すことである。第二に、これらの解決策をいかなる手続きを通して実行するかを決定することである。過去の経験からすると、二番目の手続きのほうが過度に重視される場合がほとんどである。立法機関・規制機関や裁判所には技術的能力が欠けていて、手続きと先例を中心にして物事を進める法律専門家に寄って強く支配されているからである。...政府において技術のことを理解できない法律・金融専門家が政策決定に支配的な力を行使するようになっていることは深刻な問題である。

日本でも今、そのような方向に走り始めているのではないかという懸念がある。電気という財は、使っている分だけ発電されているものであり、たくさん電気を使うと、たくさん発電されていて、少ししか電気を使わないと、少ししか電気は発電されない。両方の量のバランスがとれていないということはない。そんな基本的なことすら理解できない人たちが電力を語り、電力政策に影響力を持ちはじめているように思える。

アメリカはまさにそれで大停電を引き起こすきっかけを作った。それは本書では次のように述べられている。

1989年に連邦エネルギー規制委員会(FERC)はカリフォルニアにおける電力託送と送電系統に関する政策の審議から技術者を排除してしまったことがある。問題は経済性に関するものゆれにエコノミストだけで十分であるという理由からであった

著者は、エコノミストと技術者の「考え方」の差を端的に表現している。

エコノミストは一般論を個別ケースに無理に当てはめるだけであって、その経済効果分析も技術的な限界を無視した結果に過ぎない...エコノミストの財務的分析はもっぱら収益極大化の観点からの分析であったが、技術者は推定しうる最大損失を極小化する点を見つけるミニマックス法の考え方で合理的に分析をする

久しぶりに「ミニマックス」という言葉を見たが、これは最適化を考える際の考え方の一つであり、基礎的なトレーニングを受けた技術者であれば、皆理解している考え方であろう。

政策決定者や政策立案者は、きちんと技術的な限界点を真摯に受けとめるべきであろう。
by yoshinoriueda | 2012-04-19 22:10 | エネルギー・環境 | Trackback | Comments(0)

清涼剤はSilicon Valleyの抜けるような青い空。そして・・・


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