スタートアップの企業価値評価

どの会社にいくら投資するのかを決めていくのがベンチャーキャピタルの仕事の一つであり、その方法はさまざまなのだが、SVJENで連載しているコラムに纏めようとすると、自分が学んできた方法だけを書いても、独りよがりになるだけで、「ま、そうとも言うけどね・・・」というレベルにとどまりそうな気がしてならない。

だから、それはそれで一つの見方として持っておくだけにして、とりあえず、人に聞いたり、本やインターネットなど、できるルートを使っていろいろ調べてみた。というのも、SVJENのコラム「ベンチャーキャピタルベーシック」については、ベンチャーキャピタルなんてあまりご存じない方々にも、とりあえずのイメージを抱いてもらえるくらいのレベルの話にしようと思っているので、結局何が本質なのかを自分なりに整理するという過程が必要になる。

そんな中、次回のコラムの投資金額に関連する企業価値評価というものは、本当に奥が深いと感じる今日この頃である。奥が深いというのは、「経験が必要」という意味でそう感じるのであって、「理論的に」というのではない。というか、アーリーステージの場合、「理論的に」という部分は、現象を観察した結果、その原理を推定して説明しているように感じる。もちろん、ある考え方に基づいて一度自分なりに答えを出して、差があれば、その理由を考えるというフィードバックループを何度も回せば、それなりに自分なりの経験というか勘のようなものは積めるのかもしれない。また、ある程度実績があったり、見通しがある企業は話は全く別であろう。

一般的な書籍はともかくとして、じゃあ、実際どうなんだろうということでblogも含めてみていると、渡辺千賀さんの「Google IPO:未公開企業の価値の計算」というエントリーのnaotakeさんのコメントが自分が持っている感覚に近いと感じる。(ちなみに、このエントリーで紹介されている方法自体も、とても分かりやすい!)

未公開株、特にVC投資の世界では会社の価値決定は投資家と起業家の交渉の果たす役割が高いですよね。

・・・

実際には、VCの経験、そしてVC間のネットワークを通じて「相場」が形成されて来るのであんまり無茶なバリュエーションが成立することは希ですが、交渉の力関係で、多少の違いは出るものです。

起業家が「ウチはX(会社名)と同じようなビジネスモデルで、しかも同じような成長率を実現できるはずだからXが公開したときのSales Multipleがcomparableだ」(実際にはもうちょっと説得力のあることを言いますが)と言えば、VCは「いや、自分の経験からすればそちらのcomparableはむしろYのものに近いはずだ」などと応酬したりするはずです。そこでDCFの議論などをすることはまずなくて、だいたい売上の成長率とcomparableをめぐっての議論でしょう。

・・・

スタートアップの資金調達においては、会社の価値は起業家にとっては自分が経営上発揮できる支配力そして自分も含めたそれまでの投資家の運命、VCにとってはファンドに投資してくれた投資家と自分の報酬の運命がかかっているので、そりゃあまあ熾烈なバトルになりますわな。

また、梅田望夫さんのかなり昔のこの記事も、根っこの部分は同じような気がする。
確かにどれも皆、いい技術を持ったいい会社である。Foveonは、$41mil調達した直後の企業価値が$167mil。Egeneraは$44mil調達した直後の企業価値が$172mil。Exigenは$62mil調達した直後の企業価値が$140mil。

シリコンバレーに詳しい人にとっては言わずもがなであるが、少し解説を加えれば、この企業価値というのは、投資家が勝手に算定して設定するものである。だから、この$167mil, $172mil, $140milというのは、全部、投資家、つまりVCがそういう価値だと決めて投資したというだけのことに過ぎない

「Obviously, some VCs think these private companies are worth the premium.」
ということなのである。

一方、公開企業の企業価値は、市場で決まる。その市場で決められたほぼ同等の会社(この例でいえば、Sapient)の企業価値の4倍ものプレミアムを、VCが勝手につけて勝手に投資しているのである。

要するに、VCという村の中で企業価値を決める。そして、まず、あるところまでやってみて、次の段階になるときに、別の人に評価してもらう。もちろん、別の人もVCの村の中ではあるが、それで少しは客観性を確保する。VC村の中での経験から、VCは相場観を醸成しているから、まあ、そうなのかな、というところで話がまとまる。あるいは、そう思わせるように話を纏める。そんなバカな!と思うような話でも、勢いを作ってなんとか雰囲気を作っていく。そんなところだろうか。

もしかしたら、日本人的には理解できないところも多いかもしれないが、今、シリコンバレーでVCという業界の中にいると、そんなことを感じるのである。企業価値評価やその方法を述べるわけではないが、ベンチャーキャピタルベーシックの第4回のテーマは、「契約」。近日公開予定!ということで...乞うご期待!
by yoshinoriueda | 2005-05-02 12:02 | いろいろ読んで考える! | Trackback | Comments(0)

清涼剤はSilicon Valleyの抜けるような青い空。そして・・・


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