過去など忘れるためにあるものだ。過去には結果はあっても可能性の欠片もない(朝倉恭介)#書評 #読書感想
2018年 03月 31日
図書館で何気なく手に取った『Cの福音』に魅せられて読み始めた楡周平の小説だったが、どの作品も面白い。この面白さは、非日常的でありながら、日常の中に潜む危機を垣間見させてくれているところからくるのだろう。そう思わせるだけの描写が秀逸である。
今回手にした『ターゲット』は、北朝鮮、CIA、生物兵器、在日米軍基地といったキーワードが織りなすハードボイルド小説になっている。この小説の中で、主人公である朝倉恭介をCIAのエージェントとして鍛え上げた教官との会話の合間に、ハッとさせられる心理描写があった。
過去など忘れるためにあるものだ。過去には結果はあっても可能性の欠片(かけら)もない。
ここ数年感じるのは、自分が過去の話をしていることが多いということだった。昔はどうだったとか、そんなことを言っていても仕方がないのだが、なぜか、経験や過去の経緯を話している自分がいることに気づく。しかし、過去はあくまで結果であり、そこに可能性は存在しない。
いろいろなことを忘れている自分に気づかされることもあり、過去は忘れるものだと思っていたが、可能性をも殺してしまっていたとすればとても残念である。
もういい年になったからなのかもしれないが、これではダメだ。まだまだなのに、こんなところで止まっていてはダメだ。
小説を楽しみつつ、同時にそんなことも感じた一冊だった。ありがとう、楡周平。