高原社会では「衝動」をテコに経済合理性限界曲線の外側にある社会課題を解決しよう:『ビジネスの未来』(山口周)


『ビジネスの未来』(山口周)の主旨を簡単にいえば、


 「経済成長」ではなく、「高原社会」に入った今、経済合理性限界曲線の外側にある社会課題を解決していこう。

 そのためには、市場原理至上主義では難しく、「衝動」によるソーシャルイノベーションが大切。


ということになるだろうか。この<「経済成長」ではなく、「高原」社会に入っている>という認識に深く関係しているのが、


「時間」


に対する考え方。著者は、利子とは「資本の価値」であり、利子が「ほぼゼロ」になりつつあるということは、「資本に価値がなくなった」ということを意味しているとみる。




私たちの社会システムは「時間によって資本の価値が増殖する」という前提にして構築されているが、「利子=資本の価値」がゼロになったということは、つまり「時間の価値」もゼロになったということだと述べている。



「時間」に価値がなくなったから「金利」の価値も下がっているわけで、「時間」に価値がなくなったことにより、私たちの社会がすでに「高原」に達しており、時間を経ることで上昇・成長・拡大するという期待が持てなくなったのだとする。




そして、「ミルトン・フリードマンに代表される市場原理主義者は、政府は余計なことはせずに市場に任せておけばあらゆる問題は解決していくと主張したわけですが、それは経済合理性限界曲線の内側にある社会課題だけで、ラインの外側にある課題は原理的に解決できません。」と説明している。




経済合理性は、一定の基準に基づいて成立している。例えば、戦国の世では、基準は土地であり、土地が石高を示し、経済性を表す指標となっていた。




戦国の世の仕組みは、「耕作地の広さ」をめぐって争うと必ず「誰かが得をすれば必ず誰かが損をする」というゼロサムゲームになっているということを信長だけが気づいた「戦国時代がいつまでも終わらない本質的な理由」であるとし、信長はこの問題を、「茶道によって」きわめて鮮やかに解いたとのこと。




例えとして、油滴天目茶碗価値が「消費されていない」ため、今でも、高い値がついていることを挙げている。




この論理の前提にある「時間」の価値の問題であるが、

 現実社会では、必ずしもそうとはいえないこともある


ということを理解しておく必要があるだろう。例えば、残念ながら、電力系統のような瞬時瞬時で需給マッチング、すなわち同時同量が求められるシステムにおいては、「時間」の価値はゼロにはならない。




限界費用ゼロ社会のようなイメージであれば、資産はサンクになり、時間の価値もゼロに近いというイメージとよく合う。しかし、電力系統のように、瞬時瞬時の需給マッチングをしてバランスをとるために設備が必要であれば、資産の価値は、むしろ、時間とともに高まる。例えば、高速調整力に対しては、高い対価が払われるようなものだ。




こういった電力供給は、熟練の技が積み重なって達成されており、品質の高い電気が届けられているのだが、一般の人たちは、電気は空気と同じように、そこにあるものと考え、背後で、このような高度な需給調整がなされていることは知らないだろう。まさに、電力の安定供給を支えてきた人たちがその役割を果たしてくれていたから、あえて知る必要もなかったのだ。




ただ、技術の進歩は決して侮ることはできない。太陽光発電のコストも相当低下し、インバーターなどのパワーエレクトロニクスも低廉になって普及してくると、需給マッチングは、熟練の技からAI(人工知能)に置き換わっていく部分が出てくるかもしれない。とはいえ、まだそこまで行っていないというのが現状である。




さて、この高原社会で目指すべきは以下の2つであると著者は述べている。


 社会的課題の解決(ソーシャルイノベーションの実現)
  :経済合理性限界曲線の外側にある未解決の問題を解く

 文化的価値の創出(カルチュラルクリエーションの実践)
  :高原社会を「生きるに値する社会」にするモノ・コトを生み出す





一つ目のイノベーションについては、「この人たちをなんとか助けたい!」「これが実現できたらスゴイ!」という経済合理性を超えた「衝動」が大切であるという。




さらに2つ目の「文明的豊かさ」から「文化的豊かさ」へという流れについては、大量生産・大量消費だったところから「大きく、遠く、効率的」という価値観を転換して、「小さく、近く、美しく」に移行すべきだと説く。




ここは、まさにその通りだと思う。




先日の講演でも、



新しい事業に取り組むなら、
 > 「無消費」に挑め!
 > 新たな「文化」を創れ!


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ということを伝えてきた。これと同じことを言っていると理解した。



何かすぐに使える新しい考え方が記載されているというわけではないけれど、一度目を通して考えてみるにはいいのではないだろうか。



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by yoshinoriueda | 2021-04-23 20:49 | いろいろ読んで考える! | Trackback | Comments(0)

清涼剤はSilicon Valleyの抜けるような青い空。そして・・・


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