「その数学が戦略を決める」vs「第1感」
2008年 04月 06日
大量のデータを分析して出てくる相関関係は、因果関係ではない。しかし、見出された相関関係は、因果関係を考えるヒントにはなりえる。数字を使って欺くことも可能であるということや、相関関係と因果関係の差をしっかり認識した上で、世の中の事柄を見ていくということはとても有意義だと思う。
この「その数学が戦略を決める」に対抗するかのような「第1感 ~「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい」。専門家が、キモとなる部分を「輪切り」にし、直感で瞬間的に判断したことは、膨大なデータの分析からもたらされる結果より正しいこともある。ゲッティ美術館にもちこまれたギリシャ彫刻がニセモノであることを一瞬で見抜いた専門家の話に始まり、街頭犯罪防止部隊が犯した先入観によるサウスブロンクス・ホイラー通り(アマドゥー・ディアロ・プレース)での悲劇、プロが認めたミュージシャンが大衆には全く受け容れられないというプロと大衆の反応の差、など直感を巡る可能性と危険性が紹介されている。
おもしろかったのは、たった15分の夫婦の会話を分析するだけで、その夫婦が15年後には離婚しているかどうかを90%以上の確率で予測できるといった話。感情を20に分類するSPAFF(Specific Affect)という手法を適用し、嫌悪感は1、軽蔑は2、怒りは7、防御は10、愚痴は11、悲しみは12、拒絶は13といった具合に、会話中に現れそうな感情にコードを割り振る。この分析をほんの15分の会話に適用することで、未来が予測できるなんて、面白い(というか恐ろしい気もする...)。
ちなみに会話といった言葉の分析だけでなく、FACS(Facial Action Coding System)という表情を分析する手法もあるようだ。「トイ・ストーリー」を作ったピクサーや「シュレック」を作ったドリームワークスのデジタルアニメーターもこのFACSを利用している模様。
「その数学が戦略を決める」や「第1感」を読んで思うのは、直感やデータに騙されることのないよう、技術を含めた社会の進歩がもたらす新しい可能性にアンテナを立てつつ、研鑽をつみ続けることが大切だということ。そんなことを感じた。
参考:
・[書評] 「その数学が戦略を決める」@shorebird 進化心理学中心の書評など
・「表情豊かな手話アニメーションの生成」(pdfファイル)@高知工科大学 竹田智史
・Gottman – Specific Affects Coded Behaviors@WEISS's MARITAL RESOURCE PAGE
・Amadou Diallo@Wiki