「京都議定書以後の国際枠組みにおけるセクター別アプローチ」by GISPRI

昨日、財団法人地球産業文化研究所(GISPRI)主催の国際シンポジウム「京都議定書以後の国際枠組みにおけるセクター別アプローチ」が開催されたので傍聴。朝から東京は雨。昼間は雪になっていた。

耳タコ状態の「セクター別アプローチ」。日本の規制自体が縦割り、すなわちセクター別で行なわれており、そういった構造からいえば自然に思えるが、国際交渉の場では、特に途上国から総スカンを食らっている状態で、いまや風前の灯といった感もある考え方に思える。それでも、国際競争に曝されている鉄鋼業界などからすれば、この考え方が採用されるかどうかはまさに死活問題。

あまり期待せずに出かけたのだが、予想外に面白かった。例えば...
【数値目標について】
・(温室効果ガスの削減or排出)量へのコミットが大切と考えている人がいる。しかし、量の予測は不確実性が大きい。そんな不確実性が高いものをコミットするのは無理がある。

【米国の動向】
・米国は、キャップ&トレード導入については、温暖化対策の一つのオプションとして検討している段階。ただ、無償配布をどうしたらいいかが定まらないので、まったくまとまっていない状況。企業は(無償配布など制度設計に)利己的な主張を繰り返しているのみ。全米統一のETS(排出権取引市場)ができるとは思えない。

・米国政府は「絶対量」による規制を考えているが、米国企業は「原単位」について議論しており、議論は平行線をたどっている。原単位による管理のほうが技術的確実性があるのだが...

・米国の予算を見ていると、「APP(クリーン開発と気候に関するアジア太平洋パートナーシップ)」に対して2億ドル以上が組み込まれている。鉄鋼、セメントに期待が寄せられている模様。

【国際的枠組み】
・国際的枠組を作る必要性はあるのか?国内対策だけでは不十分なのか?二国間協議などでも枠組み作りは可能。

・国際的な取り決めがなされて、それがいきなり国内に降りかかってくるというのはナンセンス。まずは、各国が温暖化問題に対する考え方を整理し、それにそって、官が政策を展開し、民が活動を行なうということが大切。その上で、政策について相互にチェックをするというのが筋ではないか。

【IPCC第5次報告書】
・石炭の使用が急激に増えている。まさに石炭ルネッサンス。石炭の使用は今後も長く続くと予想。CCSの重要性が増す。

・No Regret Option(投資が回収できるような対策)があるにもかかわらず、それが導入されていないという現実がある。なぜそうなるのか分析が必要。なお、No Regret Optionの内容は、AR4(第4次報告書)から大きく様変わり。

【鉄鋼業界の例】
・CDQ(コークス乾式消火設備技術)は2000年代になって、中国に一気に導入され、110基までになっている。1基あたり30~60億円かかるが、1基あたり年間10万トン程度の二酸化炭素を削減することができる。

・CDQが普及した理由は主に3つ。1つ目は、90年代終わりにNEDOとともに新日鉄が中国に紹介して、中国側が理解したこと。2つ目は、現地とのJVを活用して、機器等を供給し、コストを下げたこと(?)。3つ目は、第10次、第11次の国家計画でCDQを導入することと政府が位置づけたこと。

・実際、エネルギーベースで年間2~3割を回収できる。排出権による回収は数%。特許によるコスト負担は0.1%程度。この例をみれば分かることは2つ。1つ目は、排出権だけでは、プロジェクトを採算ベースに乗せることは難しいということ。2つ目は、知的財産による障害が喧しく叫ばれているが、実際はほとんど障害にはなっていないこと。

・No Regret Optionが普及するためには、意識付け、国による政策的位置付けの明確化がポイント。
いろいろと示唆に富む内容もあり、ポーランドのポズナンで知り合った人たちとも再会でき、有意義な東京日帰り出張だった。
「京都議定書以後の国際枠組みにおけるセクター別アプローチ」by GISPRI_a0004752_1638327.jpg

参考資料:
インド/コークス乾式消火設備( CDQ ) モデル事業実施具体化調査」(pdf)@NEDO
アジアに広がる日本のエネルギー技術」(pdf)@NEDO(CDQ紹介パンフ)



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-GISPRI主催-

国際シンポジウム
「京都議定書以後の国際枠組みにおけるセクター別アプローチ」

International Symposium on Post-Kyoto International Climate Change Framework and Sectoral Approaches

 京都議定書以降の国際枠組みは、今年12月に開催されるCOP15で交渉期限を迎えます。またIPCCでは本年から第5次評価報告書の作成に向けた具体的検討が開始される予定であるなど、2009年は気候変動問題にとって重要な年であると言えます。

 昨年末のCOP14で決定された作業計画に基づき、本年は国連の場で次期国際枠組みの合意に向けた本格的な交渉が行われます。次期枠組みは「公平」かつ「実効性のある」内容であることが求められており、その実現のためには、各国の削減負担の公平性を確保し、途上国を含むすべての主要排出国が責任ある形で参加していくことが大前提となります。このような状況下、各国の産業界、研究者が国境を越えて協力し、専門的な知見を提供していくことは極めて重要です。

 本シンポジウムでは、産業界を主体とした国内外の有識者、専門家による議論を通じ、本格化する次期枠組み交渉について産業界が期待することや各国政府の施策が産業界に与える影響を、COP14での議論やIPCCにおける「緩和」の観点といった最新動向を交えながら明らかにします。特に、エネルギー効率等をセクター別に割り出し、技術を基礎として削減可能量を積み上げる「セクター別アプローチ」を、公平で実効性のある国際枠組みを実現する効果的な手段として積極的に活用するべく、掘り下げた議論を行います。

2009年2月
主催:(財)地球産業文化研究所
後援:(社)日本経済団体連合会


開催要領
1. 日時 2009年2月27日(金)10:00~17:30
2. 場所 経団連会館 14階 経団連ホール(東京都千代田区大手町1-9-4)
http://www.keidanren.or.jp/japanese/profile/kaikan/map.html
3. プログラム

<開会>
10:00 開会
10:00-10:10 来賓スピーチ
 坂根正弘 氏 (日本経済団体連合会 環境安全委員長
          (株式会社小松製作所 会長))

<セッション1.京都議定書以降の国際枠組み構築に向けて~COP14を終えて~>
COP14での議論を踏まえ、本格化する本年の交渉において、IPCCの動向を見据えつつ、次期枠組みに産業界が期待することや、各国政府の施策が産業界に与える影響等を明らかにする。
【講演1】
10:15-10:45 W. David Montgomery博士 (CRA International)
10:45-11:15 杉山大志 氏 (財団法人電力中央研究所 上席研究員)
11:15-11:45 Murray Ward氏 (Global Climate Change Consultancy)
【ディスカッション1】
11:45-12:45 モデレーター:財団法人地球産業文化研究所 専務理事 蔵元 進
パネリスト:
W. David Montgomery博士 (CRA International)
杉山大志 氏 (財団法人電力中央研究所 上席研究員)
Murray Ward氏 (Global Climate Change Consultancy)
Vincent Mages氏  (Lafarge社)
Scott R Salmon氏(United States Steel Corporation)
岡崎照夫 氏 (新日本製鐵株式会社 環境部 部長)
前田一郎 氏 (電気事業連合会 立地環境部 (国際問題担当) 部長)
和泉良人 氏 (太平洋セメント株式会社 CSR推進部 部長)

   <12:45-13:45 昼食休憩>

【基調講演】
13:45-14:15 Ottmar Edenhofer教授 (IPCC 第3作業部会共同議長)

<セッション2.次期枠組みにおけるセクター別アプローチの具体化に向けて>
セッション1での京都議定書以降の国際枠組みの討議を踏まえ、公平で実効性のある国際枠組みを実現する効果的な手段としてのセクター別アプローチについて討議を行う。
【講演2】
14:15-14:35 Christian Egenhofer氏 (欧州政策研究所)
14:35-14:55 Vincent Mages氏  (Lafarge社)
14:55-15:15 Scott R Salmon氏(United States Steel Corporation)
15:15-15:25 岡崎照夫 氏 (新日本製鐵株式会社 環境部 部長)
15:25-15:35 前田一郎 氏 (電気事業連合会 立地環境部 (国際問題担当) 部長)
15:35-15:45 和泉良人 氏 (太平洋セメント株式会社 CSR推進部 部長)

<15:45-16:15 コーヒーブレーク>

【ディスカッション2】
16:15-17:15 モデレーター:財団法人地球産業文化研究所 専務理事 蔵元 進
パネリスト:
上記【ディスカッション1】のメンバーに加え、
Ottmar Edenhofer教授 (IPCC 第3作業部会共同議長)
Christian Egenhofer氏 (欧州政策研究所)

<開会>
17:15-17:30 閉会挨拶
                本部和彦氏(経済産業省 資源エネルギー庁 次官)

※ 本プログラムは講演予定者のご都合等によりやむを得ず変更になる場合があります。
変更があり次第、随時更新いたします。
by yoshinoriueda | 2009-02-28 16:21 | エネルギー・環境 | Trackback | Comments(0)

清涼剤はSilicon Valleyの抜けるような青い空。そして・・・


by yoshinoriueda
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